難聴の石井裕也投手が、プロ野球選手という目標を達成した事例
生まれもったハンディを、強い意志で武器に変えて闘う人間がいる。
それも、プロの厳しい世界でのことだ。
―――そう、元プロ野球選手石井裕也投手がその人だ。
彼は先天性の難聴であったが、小さな頃からの憧れ――「プロ野球選手になる」――ということをあきらめなかった。
そこに至る道は決して平坦なものではなかった。
小学校に入る前から耳が不自由ながらも、すぐ上の兄と共に野球に熱中した。
その甲斐あって、高校野球神奈川大会において5試合で37個という奪三振記録を塗り替える等、その活躍は目覚しかった。
そこでついたニックネームがサイレントK(耳が不自由ながらも、三振を奪う)である。
しかし、ドラフト候補で数チームからアプローチはあったものの、結局最終指名はもらえなかったのだ。
そこで、社会人野球の三菱重工業に入り、基礎体力から鍛え直した。
が、そのチームも不況のため解散となり、形を変えた言わばクラブチームの中で努力を積み重ねることになる。
その地道な努力が実り、中日からプロ入りの話があがった。
しかし、今度は身内からストップがかかる。
共に障害と闘ってきた両親が、将来のことを案じて首を縦に振らなかったのである。
障害者特別枠で入社し終身雇用が保証された三菱重工業を離れ、実力がなければ短い期間で自由契約になるプロの厳しい世界。
ご両親はわが子を愛し誰よりも大切に想うがゆえに、こころの底から喜んでプロ入りを応援する気持ちになれない自分を責めておられたのだ。
本人の熱い想い―――「夢をあきらめない! 目標を達成する! プロ野球に絶対に行く!」
そして同時に「“障害があっても、勇気と積み重ねがあればすごいことができる!”このことを同じ障害をもつ人に身をもって伝えたい」
石井投手のこの想いは、中途半端ではなかった。
この自分の使命にまで高まった想いに基づく粘り強い話し合いの中で、最終的には両親もプロ入りを後押しするように変わっていかれた。
目標を達成するためには? コミュニケーションの力があった!
彼がプロ野球選手になるという目標を達成するまでのエピソードで、私が特に印象に残っていることが二つある。
一つは、生後10ヶ月の時に難聴だと気付かれた後のご両親の対応だ。
手話を習わせなかったのである。
聴き、そして話す―――人にとっての当たり前のこのことが限定されてしまう手話(手話人口は限られる)ではなく、普通の人と同じ方法でコミュニケーションすることを最初からあきらめずに取り組まれた。
二つ目は、プロ入り初勝利をあげた時、石井投手が答えたインタビューの内容だ。
「ウィニングボールは実家に送ります」という言葉に象徴されるように、常にコミュニケーションをしてきたご両親やこれまで支えてくれた方への熱い感謝の念がにじみ出ていたのがとても印象的であった。
目標を立て、目標を掲示し、目標を持ち続ける人
私はそのようなことを想いつつ、ある試みをしてみた。
自分が石井投手だとすれば、どういうことが目に留まり、何を感じるだろうかという取り組みだ。
自分の職場や家族はもとより、多くの企業に出向く機会が多い私は、経営者と社員、リーダーとスタッフ、家庭における親と子供といった関係を石井投手の視点で見つめてみたのである。
そこから人が目標を達成するには?
周りと素晴らしいコミュニケーションを育むには?
石井投手と自分や自分の周りとの落差が、はっきりと浮かんできたのである。
1)目標を立て、目標を持ち、目標を掲示する人、自分を信じ、目標や使命を持ち続けている時が対比して少ないこと
2)命令・指示(支配)と指示待ち(依存)の関係ではなく「相互の自立」を促す人間関係や環境作りが不足していること
3)自分が所属する組織や支えてくれる人への感謝の想いと言葉掛けがまだまだ足りないこと。
「厳しい」でも「優しい」でもない「温かい」というコミュニケーション
今回の取り組みを通じて、上司と部下のコミュニケーション、親と子のコミュニケーション
がよりくっきりと見えてきたように想う。
人に対して「厳しい」でもない、逆に「優しい」でもない。
これらの次元を超えた所にある「温かい」というコミュニケーションの大切さを身にしみて感じとったのである。
このコミュニケションがあってこそ、人は目標に向かって走り達成することが可能だと確信がもてた様にも想う。
そして、何より、人とのコミュニケションを語る前に、石井投手のように“自分が自分に行うコミュニケションで自己信頼を築くこと
―――自分を信じ、目標達成をあきらめない――このことが大切なのは言うまでもないことだと再確認ができた。
ちょうどいくらエンジン(⇒行動)がよく回る高出力のスポーツカー(本人)であっても、ガソリン(コミュニケーションを通じた自己信頼・他者信頼)が無くなれば、到着地(夢を叶える)にたどり着けないのだから。
石井投手が周囲とのコミュニケションや信頼関係を育み続けた日々―結果としてそこには自己信頼と他者信頼ががっちりと噛み合っていたのである。
あなたご自身は何を感じ、何にとり組んでおられますか?
目標を達成支援を行う、上司のあなたへの言葉
- 「目標達成をあきらめない!」
- 「使命にまで高まった想い」
- 「自分を信じ、目標や使命を持ち続ける」
- 「“相互自立”を促す人間関係や環境作り」
- 「組織や支えてくれる人へのコミュニケションや言葉掛け」
- 「“温かい”真のコミュニケーション」
- 「エンジン(⇒行動)がよく回る高出力のスポーツカー(本人)であっても、ガソリン(コミュニケーションを通じた自己信頼・他者信頼)が無くなれば、到着地(目標を達成する)にたどり着くことはできない」
- あなたは目標を達成するために、何をこころに抱き続けておられますか?
- あなたが石井投手になって今の人間関係を見渡した時、どういうことが目に留まり、何を感じられますか?
(2021年1月26日リライト)