
こんにちは。経営写コンサルタント®の水野秀則です。皆さんは、仕事を任せた相手から「どの順番で進めればいいですか」と聞かれたとき、どんな答えを返しますか。私ならこうすると、つい自分のやり方を話したくなりますね。その前に一度、何を実現するための仕事なのか、相手と同じように捉えているかを確かめてみたいと思います。
経営者シン感覚プレセッションでは、目的を実現するためのやり方はいくつもあり、自分の意見を出すことが大切だとお話ししました。学校の計算問題なら、答えを一つに絞れることがあります。職場では、目的が同じでも、使える時間や人、仕事を受け取る相手によって、ふさわしい方法は変わります。違う案が出ること自体に意味があるのですね。
台湾に駐在していた頃、現地で講演や研修をすると、私が話している途中で、ご自身の考えをその場で話してくださる方がいました。私は驚いたものです。いま、仕事を任せる場面に引き寄せて考えると、こちらが説明し終わるのを待つ間にも、相手には自分なりに見えていることがある。その考えを出してもらえる頼み方をしたいと思います。
私は山を歩くことが好きです。山に向かうときも、行き先が決まると、どんな道を取るかを考えられます。同じ行き先でも、同行する人や使える時間が違えば、ふさわしい道は変わるでしょう。仕事でも、行き先を伝えることと、そこに至る道順を全部指定することは、分けて考えられそうです。
今回ご一緒に考えたいのは、仕事を任せるとき、何を先に共有し、どこから相手に委ねるかです。自分で考えてほしいと思うときほど、任せる側が伝えるべきことがあります。まず、ふだん自分がどんな言葉で仕事を頼んでいるかを振り返るところから始めましょう。
「いつものやり方で」に、何を託しているか
例えば、会議用の資料をつくってほしいと頼むとします。「前回と同じ形式でお願いします」と言えば、引き受けた方は、前回の資料を開いて必要な数字を差し替えるでしょう。前回の会議と今回の会議の目的が同じなら、その頼み方で十分な場合もあります。
では、前回は各部門の実績を報告する会議で、今回は来月の人員配置を決める会議だったらどうでしょうか。売上や件数に加えて、仕事が重なる曜日や、特定の作業を担当できる人が限られていることも知りたいはずです。形式だけを前回に合わせると、見た目は整っていても、決めたいことに必要な材料が足りません。
そんなとき、「どうしてそこまで考えてくれなかったのだろう」と思う前に、私は頼んだ言葉を思い返したいのです。会議で何を決めたいかを伝えていたでしょうか。前回の形式のうち、どの部分を引き継ぎ、どこなら変えてよいかを示していたでしょうか。相手は、言われたことを忠実に実行したのかもしれません。
頼み方を変えるなら、「来月、どの曜日に応援が必要かを決める会議です。そこが比較できるようにまとめてもらえますか」と、使われる場面まで伝えてみます。毎月の実績を見たい人もいるなら、全体の数字は一枚に残してもらう。何を判断する資料かが分かれば、どんな情報をどこに置くかを担当者も考えられます。
一方、いつもの形式が役に立つ理由があるなら、それも伝えたいですね。たとえば、会議の資料を月ごとに比べる人がいるなら、数字の並びや集計の単位をそろえることに意味があります。形の背後にある理由を共有できると、担当者は、何を残してどこを工夫できるかを見分けやすくなります。
任せる前に、三つをそろえる

私なら、仕事を頼むときに「目的」「条件」「判断の範囲」を言葉にしてみます。何を実現したいか。どんな約束や基準を守る必要があるか。その中で、相手がどこまで決められるか。難しい仕事ほど、頼む側と引き受ける側で、この三つをすり合わせる時間が大切だと思います。
目的は、仕事を受け取る人の側から考える
一つ目の目的は、終わったときに誰がどんな状態になっていてほしいかです。「説明資料を作る」だけだと、作業は分かっても、相手に何ができるようになってほしいかまでは伝わりません。「初めて来る方が、受付で聞き直さなくても次に行く場所を選べるようにしたい」と言えば、必要な情報の見当がつきます。
ここで、仕事を頼む側が「きれいに」「分かりやすく」と感じることと、受け取る人に必要なことが、ずれる場合があります。色を増やした図が分かりやすい人もいれば、最初の一行に行き先が書いてあるほうが助かる人もいる。誰がどの場面で使うかを、先に考えてみたいですね。
条件は、理由と優先順位を添える
二つ目の条件は、方法を工夫しても守るものです。お客様と約束した時刻、社内でそろえる確認の手順、使える費用。守る必要があることが分かれば、その範囲で案を考えられます。反対に、先に伝えなければ、よい案に見えても、後になってやり直しが発生するかもしれません。
条件がいくつかある場合は、優先順位も考えます。たとえば、今日中に渡すことと、すべての項目をそろえることの両方が難しくなったら、どうするか。期限と内容のどちらを自分で調整してよいのか、両方に触れる場合は誰に相談するのか。迷いやすいところを先に話しておくと、現場で選べることが増えます。
判断の範囲は、具体的な動詞で伝える
三つ目は、引き受けた人がどこまで自分で決められるかです。「この件は任せます」と言っても、案をつくるところまでなのか、試すところまでなのか、結果を見て続けるところまでなのかで、相手が担う仕事は異なります。「決める」「試す」「相談する」といった動詞で言い分けると、行き違いを減らせます。
例えば、「今の予算と人員の範囲で、並べ方を考えて試すところは任せます。ほかの部署にも作業をお願いする場合は、試す前に私に相談してください」。これなら、任された人は、案をつくるたびに確認を求める必要がありません。任せた側も、どの判断を自分が引き受けるかを明確にできます。
引き受ける人が見ている条件も聞く
三つを伝えた後は、「進める前に、こちらが知っておいたほうがよいことはありますか」と聞きます。頼む側が前提にしていた備品が、実は別の仕事で使われているかもしれません。会議の日までに数字を集める予定が、別の担当者の締め切りと重なっているかもしれない。目的は同じでも、現場から見える条件を踏まえると、頼み方を変える必要が出てきます。
「ここまでで大丈夫ですか」と聞くと、相手がまだ仕事を始めていない段階では、「大丈夫です」としか答えられないことがあります。「最初に何から始めるつもりですか」「途中で誰の協力が必要になりそうですか」と聞くと、どこまで見通しが立っているかが分かります。理解度を試すためではなく、互いの想定が違えば、その場でそろえ直すために聞くのです。
架空の出荷現場で、任せ方を組み立ててみる
ここで、架空の卸売会社を考えてみましょう。夕方の集荷時刻が近づくと、出荷先ごとの荷物が一か所に集まり、送り状と荷物を照らし合わせる作業が込み合います。責任者は、作業台を増やすことを思いつきました。ただ、現場の担当者に準備の改善を任せてみたいとも考えています。
責任者が「作業台を一つ増やして、出荷を早くしてください」と頼めば、担当者の仕事は、台を置いて人を割り当てることになります。しかし、作業台が足りないことは、まだ確かめていません。台を増やしても、同じ担当者が二か所を行き来することになれば、照合しやすくなるとは限りません。
そこで、目的を「集荷が来る前に、出荷先ごとの荷物をそろえ、最終照合を終えられるようにする」と伝えます。守る条件は、送り状との最終照合を省かないこと、既存の通路をふさがないこと、まずは今の人員と備品で考えること。何を早めたいかと、何を守ったまま早めたいかを、一緒に示します。
そのうえで、「荷物を一時的に置く位置と、作業の順番は提案して試してもらえますか。集荷時刻の変更や追加の人手が必要なら、私に相談してください」と、判断の範囲を伝えます。責任者自身は作業台を増やす案を持っていても、最初の指示にはせず、必要なときに比較できる案として置いておきます。
現場の担当者は、梱包が終わるたびに荷物を運ぶため、集荷直前には異なる出荷先の荷物が混ざりやすいと説明しました。そして、置く場所を出荷便ごとに分け、混み合う便から梱包の順番を組む方法を考えました。もう一人は、先に行き先ごとの札を出しておく案を出します。いつもどこで確認に手間取るかを知っているからこその提案です。
案を比べるときには、それぞれが必要とする作業にも目を向けます。場所を分ける案なら、誰が空き場所を確保するか。札を出す案なら、便が変わったときに誰が差し替えるか。ある案が役に立ちそうでも、その準備を別の人が毎日引き受けるのであれば、その人にも続けられるかを聞きます。
同じ場所を使う人と置き方を確認し、まず一つの便で試すことにします。照合が終わった時刻に加え、別の便の作業が押さなかったか、初めて入る人でも置く場所が分かるかを見ます。荷物を動かした結果、照合をする人の仕事が減っても、梱包する人が探し回るなら、全体としては続けにくいからです。
この例では、必ずその案が成功するとは考えません。実際に試せば、便ごとに分けるだけでは場所が足りないと分かることもあるでしょう。そのときは、追加の作業台も改めて候補になります。責任者が最初の案を持つことにも意味があります。案を目的から見比べられるように、話す順番を変えてみたのです。
教えるところと、相手に考えてもらうところを分ける
「自分で考えてほしい」という思いから、初めての仕事でも、いきなりすべてを任せたくなることがあります。けれども、何を見ればよいか、どんなときに手を止めるかを知らなければ、考えようとしても判断の材料がありません。最初の一回は、先にやり方を見せたほうが分かりやすい仕事もあります。
そのときは、手を動かす順番と一緒に、「ここで、この表示を見るのはなぜか」「どんな違いに気づいたら相談するか」を言葉にします。順番を見せるだけなら、見たとおりに繰り返すことはできます。理由まで聞ければ、少し違う場面で、どの部分は変えてよく、どの部分は守る必要があるかを考えられます。
経験が浅い人には、選択肢を二つ出し、理由を聞いてから試してもらうところから始める。慣れた人には、選択肢を考えるところから任せる。本人の経験や仕事の影響に応じて、判断の範囲を変えてよいと思います。広く任せることだけが育成ではありません。その人が今、何なら根拠を持って決められるかを見ていくのです。
また、やり方の案が出ないときに、「もっと考えて」と繰り返しても、何をすればよいかは明らかになりません。「今の手順で、同じところを二度確認している作業はありますか」「仕事を受け取る人が迷うのはどこでしょうか」と、考える場所を示してみます。問いが具体的になるだけで、経験の中から答えを探しやすくなります。
任された人から「どうすればいいですか」と聞かれたときも、質問をそのまま返す前に、何が足りないかを見てみたいですね。これまでの経緯を知らないのか、選べる方法がいくつかあって迷っているのか、決める権限があるかを確かめたいのか。必要な情報を渡したうえで、「今の条件なら、どの案がよさそうですか」と尋ねることができます。
違うやり方が出たときに、何を基準に答えるか
任せた人が自分とは違う方法を出したとき、私は、まずその人がどんな理由で選んだかを聞きたいと思います。私が作業の速さを気にしている一方で、その人は引き継ぐ人の迷いにくさを見ているかもしれません。目的や条件に照らすと、私が先に思いついた方法より合う場合もあるでしょう。
一方で、案が条件から外れていたら、どの条件に触れるかを伝えます。「私はこのやり方が好みです」と「この方法だと、約束した時刻に照合が間に合いません」は、受け取る側にとって意味が違います。後者なら、締め切りを守りながら案のよいところを残せないか、相手も考えられます。
例えば、前に見たことがある方法であっても、以前はどんな事情で見送ったかを話してみます。「そのときは置き場所を共有する部門が多く、通路が混みました。今は配置が違うので、今の条件で考えてみましょう」。過去の経緯が伝われば、相手は同じ問題を避ける工夫を入れられます。以前の判断が今にも当てはまるかを、こちらも考え直せます。
「自分で決めていい」と伝えてから、好みの違いを理由に、事後に次々と直す。これが続けば、次の仕事では、担当者は自分の案を出す前に、上司の好みを確かめたくなるでしょう。決めてよいとした範囲の中なら、その人が選んだ方法で進めてみる。任せる側にも、決めた範囲を守る仕事があるのですね。
案を採用できないときも、出してもらった理由のうち、何が判断の助けになったかを返せます。「置く場所を変える案は今回は見送ります。ただ、別の便の荷物が混ざるという指摘で、札を出す時刻は見直せそうです」。提案が丸ごと通るかどうかと、提案によって仕事の理解が深まったかどうかは、別々に扱えるのです。
相談が必要な場面と、相談を受ける側の役割
仕事の途中で条件が変わることはあります。予定していた人が別件を担当することになったり、思ったより注文が集中したりする。そこで、「困ったら声をかけて」とだけ伝えていると、本人は、どの程度なら自分で工夫し、いつ相談すればよいか迷うかもしれません。仕事を渡すときに、相談の目安も一つか二つ決めておけます。
たとえば、「二つの便に影響しそうなら、並べ方を変える前に相談してください」「その場で元に戻せる試し方なら進めて、明日の打ち合わせで結果を聞かせてください」と伝える。本人が判断できる範囲と、責任者が早めに知るべき場面が、どちらも具体的になります。相談をすることも、任された範囲を理解したうえでの判断です。
相談を受けた側も、「任せたのだから自分で何とかしてください」で済ませないようにしたいと思います。ほかの部署との調整が必要なら、部門をまたぐ決定ができる人が動く。必要な予算の相談なら、責任者が使える範囲を示す。本人の努力では動かせない条件に、誰が手をかけるかまで決めておくことが、任せることを支えます。
それでも途中で責任者が判断を引き取る必要が出る場合はあります。そのときは、何が変わり、どの判断を引き取るのかを言葉にします。例えば、「今の便に加えて別の便も動かす必要が出たので、時間の調整は私が担当します。便ごとの並べ方は、引き続き考えてください」。相手がどこから先を担うかを、もう一度そろえるのです。
結果を見て、任せ方も見直す
仕事が終わったら、私は「どうでしたか」に加えて、「何を見て、その方法にしましたか」と尋ねてみたいと思います。結果がよくても、たまたま依頼が少なかったからかもしれません。思ったほど早まらなくても、照合する人が荷物を探す手間は減っているかもしれない。本人が見ていたことを聞けば、結果のどこを評価するかが具体的になります。
担当者の判断を振り返るだけでなく、頼み方も点検します。期限は伝えたけれど、次の工程を誰が担うかは伝え忘れていた。相談先を示したつもりでも、その人が不在のときはどうするかを決めていなかった。相手が迷ったところを聞くと、次回はこちらが伝え直すべきことも分かります。
一度の試行で、全員が同じ方法を取ると決める必要はありません。使う場所や仕事の量が違えば、条件も変わります。別の担当者にもできるか、忙しい日でも確認の手順を保てるかを見て、共通の手順にする部分と、各自が選べる部分を考えます。やり方を一つにそろえるときにも、何のためにそろえるかを共有しておきたいですね。
方法を残すときは、手順に加えて、その方法を選んだ条件を一行添えるだけでも役立ちます。「集荷前に荷物が集中するため、混み合う便から置き場を確保する」。そこまで残せば、後から引き継ぐ人は、集荷の順番が変わったときにも、何を見直せばよいかを考えられます。決まった経緯が分かると、手順も使い続けやすくなります。
振り返りの後には、次に任せる範囲も決めてみます。今回は案を出すところまでだった方に、次は一つ選んで試すところまで任せる。逆に、会社としてまだ決めていない条件があれば、そこは責任者の宿題にする。現場の人が力をつけていく過程と、任せる側の準備が整っていく過程は、同時に進むのだと思います。
次に頼む仕事で、目的を一文にしてみる
皆さんが近いうちに誰かに頼む仕事を、一つ思い浮かべてみてください。その仕事が終わったとき、誰に何ができるようになってほしいですか。「前回どおり」「早めに」と言いたくなったら、仕事を受け取る人の場面まで一文にしてみる。まずは、そこから始められます。
例えば、次に月末の引き継ぎを頼むなら、「翌朝の担当者が、お客様から連絡を受けたときに、どの案件を先に引き受けるか分かるようにしたい」と伝えます。すべてを時系列で並べるのか、返事の期限が近い案件を先に出すのか。その並べ方は、実際に引き継ぐ人と考えることができます。短い仕事にも、任せ方を見直す機会はあります。
次に、守ってほしい条件と、相手が決めてよいことを一つずつ添えます。そして、「この中で、どう進めるとよさそうですか」と聞いてみます。説明を聞いた相手が、こちらの予定と違う順番を提案したら、何を見てそう考えたかを聞く。その理由の中に、自分の指示では見えなかった仕事の姿があるかもしれません。
私が経営写コンサルタント®としてご一緒に見つめたいのは、こうしたやり取りの中に表れるリーダー自身の現在地です。任せていると思っていた仕事に、自分のやり方がどれほど細かく残っているか。自分で考えてほしいと言いながら、判断に必要なことはどれだけ共有していたか。頼んだときの言葉に戻ると、次に変える箇所が見えてきます。

皆さんなら、次に誰かに仕事を頼むとき、目的をどんな一文で伝えますか。自分が知っている答えを渡す前に、相手が同じ行き先を描けるように話してみる。そこで相手から出てきた案を、私も一緒に考えられるリーダーでありたいと思います。
