
こんにちは。経営写コンサルタント®の水野秀則です。皆さんは、最近、ご自身の目で見たり、直接話を聞いたりして、「思っていたことと違った」と感じたことはありませんか。資料では分かっていたつもりでも、その場に触れると、気になることが変わる。相手の話を聞くと、こちらが考えていた問題とは別の事情が見えてくる。そんな経験をお持ちかもしれませんね。
経営者やリーダーのもとには、日々、多くの情報が集まります。報告、数字、メール、誰かがまとめてくれた資料。自分一人では見切れないことを知るために、どれも大切です。その一方で、分かりやすく整理された情報に触れるほど、実際の場面まで知っているような気持ちになることもあるのではないでしょうか。
私は、これから発信する内容について考える中で、一次情報を大切にしたいと思っています。知識として知ったことに加えて、自分で見たこと、人と話して確かめたこと、そこで何を感じ、何を問い直したか。その実感を起点に考えたいのです。経営判断についても、同じ姿勢が必要なのではないかと感じています。
今回は、「聞いて知っていること」と「確かめて分かったこと」の間に、もう一度目を向ける。そのことをご一緒に考えてみたいと思います。遠くへ出かけることだけが、現場を知る方法ではありません。いつもの仕事を少し丁寧に見ることや、普段とは違う問いを一つ聞くことから、見えてくるものもあるはずです。
報告が整っているほど、見えなくなるものもある

報告には、短い時間で大切なことを共有する役割があります。細かな経緯をすべて並べるより、要点をまとめてもらったほうが、判断しやすい場面は多いでしょう。ただ、まとめるときには、どの出来事を残し、何を省くかという選択が入ります。報告が簡潔であることと、現場のすべてがそこに含まれていることは、同じではないのですね。
例えば、「お客様から、対応が遅いという声がありました」と報告を受けたとします。そこで、人数を増やす必要があると思うかもしれません。けれども、実際にお客様が待っていたのは、作業の完了だったのでしょうか。それとも、依頼が届いたという返事や、次に連絡が来る時刻だったのでしょうか。その違いによって、必要な対応は変わります。
報告した人が間違っているという話ではありません。「遅い」という短い言葉の中に、まだ確かめていない意味があるということです。誰が、どんな場面で、何を待っていたかを聞いてみる。そこまで戻ると、最初に浮かんだ対策とは違うことを考える場合もあるでしょう。
数字にも同じことがあります。平均の時間だけでは、長く待った人が、どのような事情だったかまでは分かりません。件数が減ったことも、困りごとが減ったのか、連絡しにくくなったのかで意味が違います。数字を疑って使わなくするのではなく、その数字が表している場面を確かめたいのです。
「もう少し詳しく」より、場面を尋ねる
報告に足りないものを感じたとき、「もっと詳しく報告してください」と求めるだけでは、相手の作業が増えるばかりかもしれません。何を判断するために、どの情報が必要なのかを、こちらも明らかにする必要があります。まずは、一つの出来事を具体的に聞くことから始めてみてはいかがでしょうか。
「そのお客様は、いつ連絡されましたか」「そのとき、どんな返事をしましたか」「その後、何が起きましたか」。こうして場面をたどると、報告する人も、自分が見たことと推測したことを整理しやすくなります。報告書の分量を増やす前に、確かめたい問いを具体的にする。そこには、聞く側の仕事もあるのですね。
自分で見たことも、全体の一部である
それなら、自分で現場へ行けばすべて分かるのでしょうか。私は、そうとも言い切れないと思います。直接見たことには、確かに、その場の手触りがあります。ただ、自分が居合わせた時間や場所は限られています。見に行った日の様子が、いつもの状態をそのまま表しているとは限らないのです。
例えば、午前中に訪れて落ち着いていたからといって、一日中余裕があるとは言えません。午後に依頼が集中するかもしれませんし、特定の曜日だけ難しい仕事が重なるかもしれません。「自分の目で見た」という確かさがあるからこそ、その範囲を広げ過ぎないようにしたいと思います。
また、経営者が来ていることで、普段とは違う動きになる場合もあるでしょう。説明のために手を止めてくれたり、いつも以上に確認したりすることもあるかもしれません。その場で見えたことを大切にしながら、「普段も、このような流れですか」「忙しいときは、どこが変わりますか」と尋ねてみるのです。
一次情報を大切にするとは、自分の体験だけを正解にすることではありません。自分が見た範囲を知り、ほかの人が見ていることと照らし合わせる姿勢も含まれると、私は考えています。直接知ったことを出発点にしながら、そこから、まだ知らないことへ問いを広げていくのですね。
見たこと、聞いたこと、考えたことを分けてみる
現場から戻った後、覚え書きを三つに分けてみることをおすすめします。自分が見たこと。相手から聞いたこと。そして、自分がそこから考えたことです。難しい記録にする必要はありません。同じ文章の中に混ぜずに置いてみるだけでも、どこまで確かめたかが見えやすくなります。
例えば、「担当者は不満そうだった」は、自分の受け止め方です。「同じ条件の確認を二度行っていた」は、見た行動として残せます。「確認待ちが多いと本人が話していた」は、聞いたことです。この違いを残しておくと、後から話し合う際にも、何をもう一度確かめる必要があるかが分かります。
現場へ行く前に、答えではなく問いを持つ
現場を見に行くとき、すでに対策を決めていると、その対策を裏づけるものばかり探してしまうことがあります。「手順が統一されていないからだろう」と思って訪ねれば、やり方の違いに目が向く。「人手が足りないはずだ」と考えていれば、忙しそうな場面が印象に残るかもしれません。
仮の見立てを持つこと自体は、悪いことではありません。何も考えずに見ても、どこに注意を向けるかが分からない場合があります。大切なのは、その見立てが違っていた場合にも気づける問いを持つことです。「どこで仕事が止まるのか」「止まらずに進むときは、何が違うのか」と、確かめられる形にしてみます。
例えば、「忙しいのは人手不足のせいですか」と聞く代わりに、「昨日、予定より時間がかかった仕事は、どのような流れでしたか」と尋ねてみる。相手の説明から、人の数以外の条件も見えてくるかもしれません。必要な情報を待っていた、優先順位が途中で変わった、確認先が分からなかった。その違いが、次の判断の材料になります。
自分の考えを確かめてもらうために現場へ行くのか、それとも、自分の考えを直す可能性も持って現場へ行くのか。同じ訪問でも、その構えによって、聞く話は変わると思います。見に行く前に、「何が分かったら、今の見立てを変えるだろう」と、自分に問いかけてみたいですね。
うまくいっている場面にも、手掛かりがある
困りごとがあると、問題が起きた場面だけを調べたくなります。もちろん、その確認は必要です。ただ、同じ仕事でも、順調に進んでいる場面があるなら、そこも見てみたいと思います。誰かの工夫があるのか、受け取る情報が違うのか、相談できるタイミングがあるのか。違いを比べることで、役立つ条件が見える場合があります。
その際、「できている人のやり方を、全員がまねればよい」と急いで決めないことも大切です。経験や担当範囲が違うかもしれません。まず、何がその人の仕事を支えているのかを聞く。個人の頑張りだけに見えていたものの中に、仕組みとして共有できる工夫があるかもしれないのですね。
一つの依頼をたどると、問題の見え方が変わる
ここで、架空の会社の場面を考えてみましょう。お客様からの問い合わせへの回答が遅れることがあり、経営者は、担当者を増やす必要があるのではないかと考えています。報告には、未回答の件数と、担当者が忙しいことが書かれています。そこで、まず一件の依頼が、受け付けから回答までどう進むかを確認することにしました。
担当者の話を聞きながら、受け取った内容、確認した資料、返事を待った相手を順にたどります。すると、その依頼では、作業そのものより、例外的な条件について判断を待つ時間が長かったと分かりました。通常の依頼は担当者が答えられますが、その条件を誰が決められるかが、はっきりしていなかったのです。
さらに確認すると、判断を求められていたのは経営者自身でした。経営者は担当者の忙しさを心配していましたが、自分のところで返事が止まっていたことには気づいていませんでした。これは、現場の確認によって、問題の場所が、自分の想定とは違うところに見えてきた例です。
ただ、この一件だけで、「人手不足ではなかった」と結論を出すこともできません。ほかの依頼では、別の理由で遅れているかもしれないからです。何件かを見比べ、判断待ちが起きる条件と、単純に作業が集中する条件を分けてみる。自分が見つけた一つの原因で、全部を説明しないようにします。
そのうえで、判断できる範囲を整理する、例外を相談する窓口を決める、経営者が確認する時刻を設けるといった方法を考えられます。一方、依頼が重なる時間帯に対応する人が足りないと分かれば、その調整も必要でしょう。現場を確かめる意味は、最初に思いついた対策を通すことより、問題に合う選択肢を持てるようにすることにあります。
皆さんの仕事でも、「相手のところで止まっている」と思っていたことが、自分の判断や情報の渡し方とつながっている場合はないでしょうか。現場を見るというと、社員の動きを見に行くイメージがあるかもしれません。しかし、そこに映っているのは、リーダー自身の仕事の進め方でもあるのですね。
本人の話を聞くときは、語りやすい入口をつくる
直接聞けば、本当のことがすべて分かるというわけでもありません。相手は、何をどこまで話してよいか考えています。特に、評価や判断をする立場の人に対しては、「この話をしたら、どう受け取られるだろう」と気になることもあるでしょう。聞く側が情報を求めていることと、話す側が説明しやすいことには、違いがあります。
そこで、何のために聞くかを伝えてみます。「誰かの落ち度を決める前に、依頼がどこで止まるかを理解したいのです」「手順を変えるか考えるために、普段の流れを教えてください」。目的を示すだけですべて解決するわけではありませんが、相手がどの範囲を説明すればよいかは分かりやすくなります。
質問も、「何か問題はありませんか」だけでは答えにくい場合があります。「直近で、確認に迷ったのはどんな依頼でしたか」「いつもより時間がかかるのは、どのようなときですか」と、具体的な出来事を尋ねてみる。一般論として評価してもらうより、実際の仕事をたどるほうが話しやすい人もいるでしょう。
そして、答えを聞いた後に、すぐ反論や指導へ移らないことです。「それは、前に説明しましたよね」と返したら、相手は、それ以上の事情を話しにくくなるかもしれません。まず、どう理解され、どんな条件で動いていたかを確かめる。必要な指導や調整がある場合も、その確認を踏まえてから話せると思います。
聞いた内容を、自分の言葉で戻してみる
相手の説明を聞いた後は、「つまり、通常の依頼は進められるけれど、この条件が入ると確認先に迷う、という理解で合っていますか」と、自分が受け取ったことを返してみます。聞いた言葉をそのまま繰り返すだけでなく、理解した関係を示すと、違っていたところを直してもらえます。
その際、「そうです」と言ってもらうことを急がないようにしたいですね。「少し違います」と返ってきたら、確かめる機会が増えたということです。直接話している利点は、疑問をその場で聞き直せることにもあります。自分なりの要約で話を閉じる前に、相手が訂正できる余地を残したいのです。
実感は、結論の代わりではなく、次の問いの入口
現場に触れると、気持ちが動くことがあります。思っていた以上に複雑な作業だった。細かな工夫が積み重なっていた。相手の困りごとを、十分に理解していなかった。そうした実感は、大切にしたいものです。ただ、そのとき強く感じたことを、すぐに組織全体の結論へ広げてよいかは、別に考えたいですね。
例えば、一人のお客様が話してくださった不便さが、心に残ったとします。その声を軽く扱う必要はありません。一方で、すべてのお客様が同じことで困っていると決めるには、まだ情報が足りません。どんな使い方をしていた方なのか、同じ条件の方がほかにもいるかを確かめる。強く心に残ったことを、問いを深めるきっかけにするのです。
また、自分が驚いたことと、現場の人が重要だと感じていることが違う場合もあります。初めて見る人には目立つ作業でも、担当者には大きな負担ではないかもしれません。反対に、短い確認に見えても、何度も繰り返されることで負担が積み重なっている場合もあるでしょう。自分の印象と、相手の日常の両方を聞きたいところです。
「私はこう感じた。では、何を確かめればよいだろう」と、一歩つなげてみる。実感を消す必要はありません。そこに、観察したことや、相手の言葉、記録を重ねていく。その積み重ねによって、ただ印象に残った経験が、仕事の判断に使える材料へと深まっていくのだと思います。
違う情報が出たときこそ、条件を比べる
一人からは困っていると聞き、別の人からは問題ないと聞くこともあります。そこで、どちらが正しいかをすぐ決めたくなるかもしれません。けれども、担当する仕事や、経験、時間帯が違えば、受け止め方が違うのは不思議ではありません。まずは、どんな条件で話しているかを確かめてみます。
例えば、経験豊かな人には簡単でも、新しく担当した人には判断材料が足りないことがあります。通常の依頼は順調でも、急ぎの依頼だけ困ることもあるでしょう。意見の違いを整理すると、全員に同じ対策を加えるより、必要な場面に絞って整えたほうがよいと分かる場合もあります。
一次情報を、周りの人が考えられる形で伝える
自分で見たり聞いたりしたことを、社内やブログで伝えるときにも、ひと手間かけたいと思います。「現場を見てきたので分かります」とだけ言っても、ほかの人は、その判断の根拠を確かめられません。どのような場面で、何が起きていて、自分は何を考えたかを分けて伝えると、受け取る人も一緒に考えやすくなります。
私が発信で大切にしたいのも、その部分です。訪ねた先の名前や、会った方の肩書きを並べるだけでなく、何に関心を持ち、どんな問いが生まれたかを言葉にする。知ったことを披露するだけでなく、読む方が、ご自身の仕事や人生に引き寄せて考えられる材料を届けたいと思っています。
もちろん、直接聞いた話だからといって、何でも外へ出してよいわけではありません。話してくれた相手が、どのようなつもりで共有したのかも大切です。個人や会社が分かる情報を伏せる、公開してよい内容を確かめる、必要なところだけ要旨として扱う。そのような配慮があってこそ、ご縁の中で教えていただいたことを大切にできるのですね。
また、読みやすくしようとして、自分が確認していない会話や結果を補ってしまうと、もとの経験とは違う話になります。考えるための例を加えたいときは、「例えば」と示せばよいのです。実際に確かめたことと、そこから広げて考えたことを分ける。その区別は、発信を堅くするためではなく、読者が安心して考えるために必要だと思います。
知識は、実感を深めるためにも役立つ
一次情報を大切にすることは、本や資料、人が整理してくれた情報を軽く扱うことではありません。事前に知識があるから、現場で気づけることもあります。見てきた後で調べることによって、自分の受け止め方を修正できる場合もあるでしょう。知識と体験を、どちらか一方に分ける必要はないのです。
知識から問いを持ち、現場で確かめ、そこで分からなかったことをまた学ぶ。その往復が、理解を深めるのではないでしょうか。人との語らいも、その往復の一部になると思います。ほかの方が見たことや、実際に経験したことを聞くと、自分がまだ見ていない範囲に気づくことがあります。
見に行った後、何を変えるかまで考える
現場へ行き、話を聞いて、「勉強になりました」で終わることもあります。それ自体にも意味はあるでしょう。ただ、仕事の改善のために時間を取ってもらったなら、その後にどう扱うかも大切です。聞かれた側は、話したことがどうなったか気になるかもしれません。何を確かめ、何を考えているかを返すところまで、意識したいですね。
すぐにすべてを変える必要はありません。「この点は見直します」「こちらは別の条件も調べてから決めます」「今回はこういう理由で変えません」と、扱いを伝えることはできます。意見を聞くことと、すべて採用することは違いますが、聞いた内容を行方の分からないものにしないことは大切だと思います。
対策を試すなら、何をもって変化を確かめるかも決めておきます。待つ時間が減ったか、確認先に迷う場面が減ったか、別の人の負担が増えていないか。何となくよくなったという印象だけで終えず、最初に困っていた場面へ戻って見る。現場を知ることは、一度の訪問で完結しないのですね。
そして、思うような変化がなければ、最初の理解を見直すこともできます。原因だと思っていたものが、一部でしかなかったのかもしれません。新しい手順が使いにくかったのかもしれません。現場を見て決めたから正しいはずだと考えず、実際に起きたことから、もう一度学びたいと思います。
自分が全部を見ることを、目標にしない
経営者が、あらゆる現場を直接確認することはできません。何でも自分が見てからでないと決められない状態にすると、かえって仕事が止まります。大切なのは、自分が行くべき場面を選びながら、周りの人が確かめたことも、判断に使える形で受け取れるようにすることです。
報告の中に、実際の出来事と、報告者の見立てが分かれている。気になる点があれば、当人に確認できる。記録と話が食い違ったときには、責める前に条件を確かめられる。そのような共有の仕方を整えることも、一次情報を大切にする経営の一つの形ではないでしょうか。
皆さんが、次に確かめたいことは何ですか
ここまで読んでくださった皆さんに、今、判断しようとしていることを一つ思い浮かべていただきたいと思います。その判断は、何をもとにしていますか。報告や数字のうち、実際の場面まで確かめたことは何でしょうか。誰かの見立てを、自分もそのまま前提にしているところはないでしょうか。
すべてを調べ直す必要はありません。結論が変わるかもしれない、大切な未確認事項を一つ選んでみます。そのことを知るには、誰に、何を聞けばよいか。どの場面を見ればよいか。いつの記録を確かめればよいか。問いを小さく具体的にすると、次の行動も決めやすくなると思います。
私が経営写コンサルタント®として大切にしたいのは、経営者やリーダーの現在地を、実際の姿から見つめることです。できているつもり、伝わっているつもり、分かっているつもり。その「つもり」に気づくのは、ときに耳の痛い時間かもしれません。それでも、現在地が見えれば、次に変えることを具体的に考えられます。
見に行く。聞いてみる。そして、分かった範囲と、まだ分からないことを持ち帰る。私は、そのような姿勢で一次情報に触れていきたいと思います。知ったことで話を閉じず、新しい問いを持つ。直接の実感と、周りの人の知恵を重ねながら、判断を深めていきたいのです。

皆さんは、次に誰の話を、どんな問いで聞いてみたいですか。「分かっている」と思っていた仕事の中にも、まだ見えていない場面があるかもしれません。私も、自分の見方を決めつけず、現場の実感に触れながら、皆さんとご一緒に、より確かな一歩を考えてまいります。
