
こんにちは。経営写コンサルタント®の水野秀則です。皆さんは、「必要なことは、きちんと説明したはずなのに」と感じたことはありませんか。資料も渡した。順を追って話した。質問がないかも確かめた。それでも、その後の会話をすると、思っていたことが伝わっていない。経営方針を話すときも、お客様へ提案するときも、そのような場面があるかもしれませんね。
説明が間違っていたわけではない。相手が聞いていなかったとも限らない。けれども、言葉を受け取ることと、その内容を自分の仕事や暮らしの場面に重ねられることには、間があります。私たちは、その間を確かめずに、話し終えたことを、伝わったこととして扱ってしまう場合があるのではないでしょうか。
先日、漫画家のサインがあるお店のことをXで取り上げました。そのことをきっかけに、ビジュアルや、そこから生まれる感情が、人の心に届くことについて考えました。何が書かれているかを知るだけでなく、目に入ったものから、何かを感じる。情報を受け取る時間には、そのような側面もあるのですね。
今回は、説明した内容を、相手が自分の場面に重ねて考えられるようにするには、どうしたらよいか。そこをご一緒に考えてみたいと思います。言葉に、写真や図、具体的な場面を添える。そして、相手が何を受け取ったかを聞いてみる。伝えることを、一方通行の説明から、実感を確かめ合う対話へ広げてみませんか。
情報は届いていても、場面が浮かんでいないことがある

例えば、「お客様の立場に立って対応しましょう」という方針を伝えたとします。多くの方が、その言葉には賛成されるでしょう。ただ、頭の中に浮かんでいる対応は、同じとは限りません。早く返事をすることを思う人もいれば、十分に話を聞くことや、分かりやすく説明することを思う人もいるはずです。
どれも大切ですが、実際の場面では迷いが生まれます。すぐに返事をするため、確認が終わっていない情報を伝えてよいのか。丁寧に聞くうちに時間が長くなったら、どうすればよいのか。方針の言葉を覚えていても、その場で何を選ぶかまで共有できているとは限らないのですね。
そこで、例えば「確認に時間がかかるときは、分かっていることと、次に返事ができる時刻を先に伝える」と、場面を添えてみます。相手は、電話を受けたときや、メールを返すときの自分を思い浮かべられます。抽象的な方針が、実際の仕事の中で使う言葉や動きに近づいていくのです。
伝わりにくいと感じたとき、さらに詳しい説明を重ねる前に、相手はどの場面を思い浮かべているかを確かめてみませんか。「今の話は、普段のどんな対応に関係しそうですか」と聞いてみる。そこで初めて、こちらと相手が違う場面を考えていたことに気づく場合もあると思います。
説明の量より、何をつなぐか
伝えたいことが多いと、資料のページも、話す時間も増えがちです。それだけ準備したのだから、きっと分かってもらえるだろうと思いたくなることもあります。けれども、相手が今必要としていることとのつながりが見えなければ、情報が増えるほど、どこを受け止めればよいか迷うかもしれません。
相手は何を判断したいのか。何が分からずに立ち止まっているのか。すでに知っていることは何か。その入口が分かると、全部を一度に話さなくてもよいことがあります。説明の準備には、伝える情報を集めることだけでなく、相手が自分の経験と結びつけられる接点を探すことも含まれるのですね。
ビジュアルは、言葉の意味を確かめるためにも使える
写真や図を使うというと、見栄えをよくすることや、印象に残る演出を思い浮かべる方もおられるでしょう。それも一つの役割かもしれません。ただ、仕事の場面では、同じものを見ながら話せることに、大きな意味があると私は思います。頭の中で別々に想像していたことを、目の前に置いて確かめられるからです。
例えば、「作業場所を使いやすくしたい」と話すだけでは、人によって気になる点が違います。実際の配置を簡単な図にしてみると、どこで人がすれ違い、どの棚まで物を取りに行っているかを指しながら話せます。「使いにくい」という言葉の中身が、移動の多さなのか、物の探しにくさなのか、少しずつ見えてきます。
写真にも、その場の様子を共有する働きがあります。ただし、写真を見せれば、誰もが同じ意味を受け取るとは限りません。ある人は人の表情に目が向き、別の人は配置や道具を見るでしょう。ですから、「ここを見ていただきたいのです」と、注目する場所と、その理由を言葉で添えることが大切なのですね。
一方、手順や関係を伝えたいときには、写真より図のほうが扱いやすい場合もあります。誰から誰へ情報を渡すか、どこで確認するかを示せば、全体の流れを見ながら話せます。何でも画像にすればよいのではなく、伝えたいことに合う形を選ぶ。ビジュアルを使う目的を、先にはっきりさせたいのです。
一枚に、全部を詰め込まない
図にする際も、伝えたいことを全部載せると、かえって見る場所が分からなくなることがあります。細かな注釈、たくさんの矢印、いくつもの色。作った側は構造を分かっていても、初めて見る人は、どこから読めばよいか迷うかもしれません。一枚で何を確かめたいのかを決めることが、最初の工夫になります。
例えば、まず仕事の受け渡しだけを示し、問題が起きやすいところを一緒に確認する。詳しい条件は、別の説明に分ける。相手が問いを持てる余白を残すと、図は説明を完成させるものだけでなく、対話の入口にもなります。きれいにできたかに加えて、何を話し合えるようになったかを見てみたいですね。
感情に届くとは、不安や感動をつくり出すことではない
人の心に届く伝え方を考えるとき、私は、その人が実際に気にしていることに目を向けたいと思います。困っていることが分かってもらえた。自分が関わる意味が見えた。これなら次に進めそうだと思えた。そのような気持ちは、派手な演出がなくても生まれる可能性があります。
例えば、新しい仕組みの説明を受ける人は、便利になる点よりも、「今までのデータはどうなるのだろう」「操作が分からなくなったら、誰に聞けばよいのだろう」と気にしているかもしれません。その心配を置いたまま利点だけを話しても、自分が使っている場面を前向きに想像することは難しいでしょう。
そこで、実際の画面を一緒に見て、今の仕事がどこから始まるかを確認する。分からなくなったときの戻り方や、相談先も示す。相手が不安に感じている点へ、具体的に応じるのです。「すごいと思わせる」よりも、「自分にも関係が分かる」と感じてもらえることを、大切にしたいと思います。
感情に届かせたいからといって、実際より大きな効果を言ったり、必要以上に危機感をあおったりすれば、相手の判断を助けることから離れてしまいます。伝える人の望む反応を引き出すために、都合のよい場面だけを見せることにも気をつけたいですね。心が動くことと、判断に必要な情報がそろうことを、両方大切にしたいのです。
ためらいにも、耳を傾ける
相手がすぐに賛成しないと、まだ魅力が伝わっていないのだろうと考えることがあります。もちろん、説明が足りない場合もあるでしょう。ただ、相手には、こちらが知らない条件があるかもしれません。費用よりも準備の時間が気になる、本人は納得していても周囲への説明が必要、といったこともあります。
「どのあたりが気になっていますか」と聞いてみると、次に説明することが変わります。そのためらいを、説得して消すべきものとだけ見ない。相手が何を大切にして選ぼうとしているかを知る手掛かりとして受け止める。伝わったかどうかを、賛成したかどうかだけで測らない姿勢が必要だと思います。
同じ提案でも、伝え方を変えると問いが変わる
ここで、架空の仕事の場面を考えてみましょう。社内の依頼方法をそろえるため、新しい入力フォームを導入しようとしています。説明する側は、「効率が上がります」「情報共有が進みます」と利点を伝えます。一方、使う側には、入力の手間が増えるのではないかという心配があります。
このとき、機能を順番に紹介するだけでは、互いに違うことを見たまま話し続けるかもしれません。そこで、架空の依頼を一件用意し、今の流れを描いてみます。依頼を受け取る、条件を聞き直す、過去のメールを探す、担当者に確認する。どこで情報が足りず、仕事が止まるのかを、一緒に確かめるのです。
次に、その同じ依頼を新しいフォームで扱うとしたら、どうなるかを見せます。最初に何を入力し、受け取る側には何が見えるのか。入力が増えるところも、確認が減ると考えられるところも示す。実際の効果はまだ確かめていないなら、見込みとして話します。よい面だけを見せるより、仕事がどう変わるかを具体的に共有するのですね。
すると、「この項目は依頼するときには、まだ分かりません」「急ぎの場合は、どこへ連絡するのですか」といった問いが出るかもしれません。それは説明が失敗した証拠ではありません。相手が自分の仕事の場面を重ねたからこそ、見えてきたことです。その問いから、仕組み自体を直したほうがよい点も分かるでしょう。
ここで、実際に一件入力してみる時間を取ることも考えられます。説明を見たときには分かったつもりでも、操作すると迷うことがあります。本人がどこで立ち止まったかを見れば、説明の順番や、画面の言葉を見直す材料になります。見せて、試して、話を聞く。その往復が、実感を確かめることにつながるのです。
この例では、新しい仕組みを導入することだけを成功としないことも大切です。試した結果、今の仕事には合わない部分が見つかるかもしれません。伝え方を工夫することで、その不一致に気づけたのなら、次の判断に役立ちます。相手に受け入れてもらうこと以上に、必要なことを一緒に確かめられたかを見たいですね。
経営者の思いも、一つの場面から伝えてみる
お客様への提案だけでなく、社内へ経営者の思いを伝えるときにも、具体的な場面が役立ちます。「信頼される会社にしたい」「一人ひとりが力を発揮できるようにしたい」。その言葉を大切にしているからこそ、どのような日常の姿を思い浮かべているかも、伝えてみてはいかがでしょうか。
例えば、信頼について話すなら、何でもできますと言うことなのか、できないことも早めに伝えて次の方法を相談することなのか。力を発揮することについて話すなら、すべて一人で解決することなのか、必要な場面で周囲の知恵を借りられることなのか。言葉だけでは分かれやすい意味を、仕事の場面から確かめるのです。
その際、日々の実際の出来事があるなら、誰が何をして、どこが大切だと感じたかを具体的に話せます。特定の人やお客様の事情を不用意に広げず、共有してよい範囲を選ぶことも必要です。出来事を立派な成功談に整え過ぎず、自分がどこに心を動かされたかを伝える。その実感に、経営者の価値観が表れるのだと思います。
反対に、都合のよい逸話を事実のようにつくる必要はありません。「例えば、こういう場面を考えてみてください」と、仮の話として示す方法もあります。実際の経験から伝えることと、想像して考えるための例を出すことを分ける。聞く側が、その話をどう受け止めればよいか分かることも、伝える誠実さの一つですね。
理念を、正解を当てる問題にしない
場面を示すときにも、経営者が考えた一つの行動だけを正解にしてしまわないようにしたいものです。現場では、条件によって判断が変わります。「この理念なら、必ずこうするはずだ」と答えを求めるより、「この場合、何を大切にして判断しますか」と話し合う余地があってよいと思います。
違う意見が出たら、その人は何を見てそう考えたのかを聞く。経営者自身も、自分の考えの理由を話す。その対話を通じて、理念の言葉が、現場で判断するための共通の問いになっていきます。暗記しているかよりも、迷ったときに立ち戻れるか。その使われ方まで考えたいのです。
数字と実感を、一緒に扱う
感情やビジュアルを大切にする話をしてきましたが、数字や条件を省いてよいという意味ではありません。仕事として判断するには、費用、期間、必要な人数、対応できる範囲なども大切です。イメージはよく分かったけれど、自分たちに合うかを判断する材料が足りない。そのような説明にはしたくありません。
例えば、作業を短くできるという提案なら、どの作業を、どの条件で見込んでいるのかを示す。すでに測った結果と、これから確かめる予想を分ける。図で流れを伝えた後に、判断に必要な数字を添えると、相手はイメージと条件をつなげて考えられます。数字だけでも、雰囲気だけでも足りない場面があるのですね。
また、短くなる時間だけでなく、最初に覚える手間がかかる場合もあります。使う人にとっては、その負担も現実です。よい変化を見せることに集中して、その前に必要な準備を小さく扱っていないか。相手が導入後の自分を想像できるようにするには、不便になる部分や支援の内容も含めて伝えたいと思います。
気持ちが動くことと、納得して判断できることを、同じ説明の中で支える。これは、相反することではないと思います。自分の事情を分かったうえで、必要な条件も示してくれた。そのことが、安心して考える助けになる場合もあるでしょう。伝える側の熱意と、相手の判断に必要な冷静さを、両方持っていたいですね。
写真や図も、何を示すものかを明らかにする
一枚の写真や図は、実際より広い意味に受け取られる場合があります。一つの事例を見せたつもりでも、いつでも同じ結果になると思われるかもしれません。想定の図を示したのに、すでに実現している姿だと受け取られることもあるでしょう。だから、実例なのか、説明用の例なのかを添えることが大切です。
きれいに見える資料ほど、作った側は説明を省きたくなるかもしれません。それでも、「これは流れを理解するための図です」「実際の運用は、ここを確かめてから決めます」と言葉を加える。ビジュアルの分かりやすさを生かしながら、相手が見たものの意味を取り違えないようにする。その配慮も含めて、伝え方を整えたいのです。
「分かりましたか」から、受け取ったことを聞く問いへ
説明を終えた後、「分かりましたか」と聞くことはよくあります。ただ、相手もその場では分かったと思っている場合がありますし、何が分からないかをまだ言葉にできないこともあるでしょう。「はい」という返事だけでは、どこまで場面を共有できたかは、十分には分からないのですね。
そこで、「今の話を、ご自身の仕事ではどこで使えそうですか」と聞いてみる。あるいは、「実際にやるとしたら、どこが気になりますか」と尋ねてみる。相手が考えた場面や、引っかかった点を聞くことで、こちらの説明がどう届いたかが見えてきます。相手を試すためではなく、説明を調整するための問いです。
相手の言葉が、こちらの表現と少し違っていても、すぐに訂正する必要はありません。自分の経験に置き換えて話しているのかもしれないからです。大切な意味が変わっていないか、必要な条件が抜けていないかを確かめる。同じ言葉を繰り返してもらうことより、本人がどう理解したかを知ることを大切にします。
また、その場で答えるよりも、少し整理してから話したい方もいます。文章で質問できるようにする、後で試してから確認する時間を取るなど、受け止め方に合わせた方法も考えられます。説明した直後の反応だけで、関心がないとか、理解していないと決めつけず、確かめる機会を用意したいですね。
問いが出たら、説明の不足だけを探さない
質問が出ると、準備が足りなかったと感じることもあるでしょう。けれども、相手が自分の事情に引き寄せて考えたからこそ、出てきた問いもあります。説明の前には見えなかった条件や、使う場面の違いが分かることもあるのです。それは、一方的に説明しているだけでは得られなかった情報です。
「その場合もありますね。そこは、まだ考え切れていませんでした」と受け止めることもできます。すぐに答えをつくるより、確認して返すほうがよい場合もあるでしょう。伝えることを、完成した答えを渡す行為だけにせず、一緒に分かっていく過程として扱う。そこに、対話の力があると私は思います。
次の説明を、一つの場面から組み立ててみる
皆さんが近いうちに説明する予定のことを、一つ思い浮かべてみてください。お客様への提案でも、社内の連絡でも構いません。最初に考えたいのは、話し終わった後、相手が何を判断できればよいかです。内容を全部知ってもらうことと、必要な判断ができることを、分けて考えてみます。
次に、その判断が必要になる場面を一つ選びます。相手は、誰と、何をしているときに、その情報を使うのでしょうか。そこで困ることは何でしょうか。その場面を言葉にできたら、写真、図、実物、短い実演のうち、何が役立ちそうかを考えます。先に画像を用意してから話を合わせるより、伝えたい場面から選ぶのです。
そして、相手が選ぶために欠かせない条件を添えます。できること、できないこと、準備が必要なこと。最後に、「実際の場面では、どこが気になりますか」と聞く時間を残します。話す内容を予定時間いっぱいに詰め込まず、相手の言葉が入る場所も、最初から準備しておきたいですね。
終わった後は、資料を使ったかどうかだけでなく、どんな問いが出たかを振り返ります。見せた図が役立ったのか、別の例のほうがよかったのか。相手が気にしていたことと、自分が強調していたことは重なっていたか。説明の上手さを採点するより、次に何を変えるかを考える材料にしてみてください。
届けたいのは、説明の上手さより、考えられる実感
漫画家のサインがあるお店の話から、私は、目に入るものや、そこから生まれる感情が、人の心に届くことを考えました。その問いは、仕事の伝え方にもつながっています。情報の中身だけでなく、何を目にし、どんな場面を想像し、何が気になるか。その一連の受け止め方に、目を向けてみたいのです。
私たちが伝えたいことには、背景や思いがあります。それを大切にするからこそ、相手の中でどう受け取られているかにも、関心を持ちたいと思います。こちらが強く思っているほど、説明を増やしたくなるかもしれません。そのとき、一つの場面を見せ、相手の言葉を聞く時間を取ってみてはいかがでしょうか。
言葉で意味を伝え、ビジュアルで場面を共有し、対話で実感を確かめる。使う手段は、いつも同じでなくて構いません。図が役立つ日もあれば、実物を一緒に見るほうがよい日もあるでしょう。大切なのは、相手が自分の仕事や暮らしに重ねて考えられるようにすることです。

皆さんが次に伝える話には、相手が自分の姿を思い浮かべられる場面があるでしょうか。そして、その人が何を感じ、何を気にしているかを聞く時間はあるでしょうか。私も、説明したつもりで終わらず、相手の実感に耳を傾けながら、心に届く伝え方をご一緒に深めていきたいと思います。
