
こんにちは。経営写コンサルタント®の水野秀則です。皆さんは、部下や仕事の仲間に対して、「これは伝えたほうがよい」と思いながら、言葉を飲み込んだ経験はありませんか。仕事の進め方で気になることがある。約束したことが、そのままになっている。けれども、関係が悪くなったら困ると思うと、切り出すのをためらってしまう。リーダーとして、悩ましい場面ですね。
一方で、何度も同じことが続くうちに、我慢が積み重なり、思っていた以上に強い言い方になってしまうこともあるでしょう。伝えたかったのは仕事の改善だったのに、話が終わるころには、お互いに気まずさだけが残っている。言わずに抱え込むことと、感情のまま伝えることの間で、揺れたことのある方もいらっしゃると思います。
9月16日、12名で開催した「経営者シン感覚プレセッション」では、相手を責めることと、相手が進もうとしている方向に立って関わることの違いについてお話ししました。その人にどうなってほしいのか、何を一緒に実現したいのか。そのときお伝えした姿勢を、日々の仕事の場面に引き寄せて考えてみたいと思います。
今回のテーマは、伝えるべきことを曖昧にせず、その人の次の行動につながる形で向き合うことです。相手を思う気持ちがあっても、何を伝え、何を聞き、どこまで一緒に引き受けるかが見えなければ、話は前へ進みません。皆さんが今、言いにくいと感じていることを一つ思い浮かべながら、お読みいただければと思います。
その一言で、何をよくしたいのでしょうか

気になることを伝える前に、まず自分に問いかけてみてください。「この話をした後、仕事がどうなっていたらよいのだろう」。遅れている作業を間に合わせたいのか。判断に迷ったとき、早めに相談してほしいのか。担当者が変わっても、お客様への対応が途切れないようにしたいのか。何をよくしたいかによって、話す内容は変わります。
ところが、気持ちが高ぶっているときには、「こちらがどれだけ困ったか、分かってほしい」が前に出ることがあります。その気持ち自体を、無理に打ち消す必要はないでしょう。実際に困ったことも、負担が増えたこともあるのですから。ただ、相手に自分の大変さを認めさせることだけが話の着地点になると、次の仕事の進め方が決まらないまま終わりかねません。
例えば、「何度言えば分かるのですか」と言いたくなったとします。その奥には、「同じ確認を繰り返さずに済むようにしたい」という願いがあるのかもしれません。そうであれば、確認の仕方、伝えた内容、相手が判断できる範囲などを見る必要があります。腹が立った理由をたどっていくと、本当に扱うべき仕事の課題が見えてくることがあるのですね。
自分の気持ちと、仕事として必要なことを、一度分けて書いてみるのも一つの方法です。「腹が立った」の隣に、「確認が遅れ、別の担当者の作業が止まった」と書く。そこから、「次回は、止まりそうな段階で知らせてほしい」という期待を取り出す。感情をなかったことにするのではなく、伝える中身を整えるための時間を持つのです。
「分からせたい」が先に立っていないか
相手に納得してもらいたいという思いが強いほど、こちらは説明を重ねたくなります。過去の例を次々と出したり、自分の経験を長く話したりすることもあるでしょう。けれども、相手が口を挟めないほど話し続けていたら、何が起きていたのかを知る機会は減ってしまいます。伝える準備とともに、聞く余地も用意しておきたいものです。
その場で相手がうなずいたからといって、事情を十分に理解し、次の行動まで決まったとは限りません。話を早く終わらせたかっただけかもしれませんし、何から説明すればよいか迷っている場合もあります。こちらの話を受け入れたように見えることを急いで求めず、仕事の認識がどこまでそろったかを確かめる。その違いを意識してみたいのです。
人柄の評価から、確かめられる事実へ
「最近、責任感が足りない」「いつも受け身だ」「もっと当事者意識を持ってほしい」。職場で耳にすることのある言葉です。言う側には思い当たる出来事があるのでしょう。しかし、受け取る側には、どの行動について話しているのかが見えにくい。人柄全体を評価されたように感じて、身構えることもあるかもしれません。
そこで、まず一つの出来事に絞ってみます。例えば、「昨日の夕方までに確認する予定だった資料が、今朝の時点では共有されていなかった」。これなら、何について話しているかが分かります。もし別の場所に共有されていたなら、認識を修正できますし、約束の時刻が違って伝わっていたなら、その食い違いを確認できます。
事実を伝えることは、こちらの見方を絶対に正しいものとして差し出すことではありません。「私が確認した範囲では」「こちらでは受け取れていないのですが」と、自分の把握している範囲も含めて伝える。そのうえで、相手から違う情報が出たら確かめる。指摘の出発点に、訂正できる余地があることは大切だと思います。
「いつも」「全然」「毎回」といった言葉にも、少し気をつけたいですね。実際に複数回起きているなら、具体的な出来事を整理して伝えればよいのです。感覚的に範囲を広げてしまうと、「あのときはできていました」という反論に話が移り、今回何を変えるかから離れてしまいます。広く責めるより、扱う出来事を明確にするほうが、改善の話を進めやすくなります。
事実の次に、仕事への影響を伝える
出来事だけを示しても、なぜそれを問題にしているかが伝わらないことがあります。そこで、仕事への影響を添えてみましょう。「確認する時間が取れず、次の担当者への引き継ぎが翌日にずれた」。相手を驚かせるために大きな話へ広げず、実際に起きたことを説明するのです。
まだ起きていないことは、起きたことと分けて扱います。「このままだと、お客様に約束した時刻に間に合わない可能性がある」と懸念を伝えるのと、「あなたのせいで信用を失った」と断定するのとでは、話の内容が違います。何が確認できていて、何を心配しているのか。そこが分かると、相手も必要な対応を考えやすくなります。
相手の事情を聞くことは、基準を下げることではない
伝えたい事実と影響を整理したら、相手側では何が起きていたかを聞いてみます。「どこまで進んでいましたか」「どの段階で止まりましたか」「判断に迷った点はありましたか」。責任を決めるために詰めていくのではなく、仕事が止まった場所を一緒に確かめるつもりで尋ねてみてください。
例えば、本人は確認を依頼したつもりで、別の担当者からの返答を待っていたのかもしれません。優先順位の異なる依頼が重なっていたのかもしれません。あるいは、作業に必要な知識が足りず、どこから相談すればよいか分からなかったということもあるでしょう。理由が違えば、次に整えることも違ってきます。
事情を聞くと、そのまま認めてしまうことになるのではないか。そう感じる方もおられるかもしれません。けれども、理由を理解することと、必要な仕事の水準を変えることは、別に考えられます。「確認待ちだったことは分かりました。その場合でも、期限に影響が出ると分かった時点で知らせてほしい」。背景を聞いたうえで、求める行動を明確にすることはできるのです。
一方、話を聞いてみた結果、こちらの依頼が曖昧だったと分かる場合もあります。「なるべく早く」とだけ伝え、相手は別の仕事を優先していた。その場合には、本人の姿勢だけを問題にせず、「時刻を明確にしていなかったのはこちらでした」と、自分の側も修正したいですね。相手だけが変わる前提で話していないかを確かめる機会でもあります。
すぐに答えが出ないときは、確認する時間を決める
相手が黙ってしまうと、こちらは質問を重ねたくなることがあります。しかし、その場で全部の経緯を思い出せるとは限りません。「少し整理してから、午後に確認しましょう」と、話し直す時間を設けることもできます。急ぎで押さえるべき状況と、後で整理できる振り返りを分けると、必要な対応を止めずに済みます。
もちろん、今すぐ対応が必要なことまで、結論を先送りするわけではありません。まず関係者に連絡する、提出を待っている人に状況を知らせるなど、当面の動きを決める。その後で、何が起きていたかを落ち着いて確認する。一度の会話ですべてを済ませようとせず、順番をつけることも、向き合い方の一つだと思います。
「ちゃんとしてほしい」を、次の行動まで具体的にする
事情を確認できたら、次に何をしてほしいかを伝えます。「今後は気をつけてください」「もっとしっかりお願いします」で終わると、相手は自分なりに受け止めるしかありません。皆さんが思い浮かべている改善と、相手が想像している改善が同じかどうかは、まだ分からないのですね。
例えば、期限の前日に確認する必要があるなら、その理由とともに時点を伝える。遅れが見えたときの連絡が必要なら、誰に、何を知らせるかを決める。文章の細かな書き方まで全部指定する必要はありませんが、仕事をつなぐために欠かせない部分は、言葉にして共有しておきたいと思います。
ここで大切なのは、相手が実行できる範囲まで具体的にすることです。「もう絶対に遅れないでください」と言うだけでは、急な変更や相手先の都合が起きたときの動きが決まりません。「遅れの可能性が分かった時点で、現在の状況と見込みを知らせる」。不確実なことがある仕事だからこそ、問題が起きたときの行動を共有しておく意味があります。
必要な水準は明確にし、その水準に届くための進め方は対話する。皆さんが任せたいのは、指示どおりに動くことだけでしょうか。それとも、状況を見て判断し、必要な相談をしながら仕事を進めることでしょうか。目指す姿に応じて、相手が考える余地も残しておきたいのです。
必須の条件と、任せられる部分を分ける
例えば、顧客に伝える情報の正確さや、社内確認を済ませてから送るという手順は、守るべき条件かもしれません。一方で、作業に着手する順番や、本人が使うメモの形式は、任せられることもあります。全部を同じ強さで指示すると、何が本当に重要なのかが見えにくくなります。
「ここは必ず確認してほしい。準備の進め方は、やりやすい方法を提案してください」と分けて伝えれば、相手も考える場所が分かります。リーダー自身の好みを、仕事上の必須条件と混ぜていないかも見直したいところです。自分とやり方が違うというだけで、直すべきことだと考えていないでしょうか。
架空の場面で考える、伝え方の組み立て
ここで、一つの架空の場面を考えてみましょう。翌日にお客様との打ち合わせがあり、前日の午後3時までに提案資料を社内共有する予定でした。ところが、午後4時になっても資料が見当たりません。リーダーは別の予定を調整して確認時間を空けていたため、焦りと苛立ちを感じています。
このとき、「またですか。仕事を任せている自覚はありますか」と切り出せば、相手はまず、自分への評価に応じることになるでしょう。資料がどこまでできているかよりも、「やっています」「自覚はあります」という話になりかねません。必要なのは、明日の打ち合わせに向けて、今の状態を確かめることです。
そこで、「3時に共有する予定だった資料が、こちらではまだ確認できていません。明日に向けて内容を確認したいので、今どこまでできているか教えてください」と伝えてみる。これなら、時刻、出来事、必要な理由、確認したいことが示されています。相手が別の場所へ保存していたのなら、その場で認識を直すこともできます。
相手が「見積もりの返答を待っていて、資料全体を止めていました」と説明したとしましょう。ここで「それなら仕方がない」と終わる必要も、「言い訳をしないで」と遮る必要もありません。まず、確定している部分を先に共有できるか、未確定の項目をどう区別するかを相談します。今必要な対応を、具体的な作業へ分けていくのです。
そのうえで、「今後は、確認待ちで期限に影響が出そうな時点で、一度知らせてください。こちらでも確認先への連絡を手伝えます」と伝えることができます。リーダーも、返答が必要な連絡を自分のところで止めないようにする。担当者に求めることと、自分が引き受けることを、同じ会話の中で明らかにするわけです。
この例で、相手がすぐ前向きになったとか、次から問題がなくなったとは限りません。伝え方を整えれば、すべて解決するわけではないのです。ただ、何を確認し、何を変え、誰が動くかを話せる状態には近づけます。リーダーの言葉を整える意味は、その人を思いどおりの反応にすることより、仕事を前へ進める対話をつくることにあると思います。
期待を伝えるなら、支援も具体的にする
「期待しているから言っているのです」。この言葉に、皆さんの本心が込められていることもあるでしょう。けれども、相手から見ると、何を期待され、どこまで自分で対応しなければならないのかが分からない場合もあります。期待という言葉を添えるだけで、重い仕事を引き受けやすくなるわけではありません。
例えば、初めて担当する仕事なら、過去の資料を見られるようにする、途中で確認する時間を取る、迷ったときの相談先を決めるといった支援が考えられます。本人に判断を任せるなら、判断できる範囲も必要です。責任だけ渡して、必要な情報や権限を渡していなかったとしたら、その不足にも目を向けたいですね。
時間の問題であれば、「頑張って間に合わせて」だけでなく、今持っている仕事の優先順位を一緒に確認します。新しい依頼を増やしながら、以前と同じ期限をすべて守るよう求めていないか。リーダー側で調整すべきことがないか。相手の工夫で解決する部分と、組織として整える部分を分けて考える必要があります。
支援することは、毎回リーダーが仕事を代わりに仕上げることとも違います。何でも引き取ってしまうと、本人が判断する機会が減り、リーダー自身の仕事も増えてしまいます。「ここまでは一緒に確認する。その先は任せる。迷った場合はこの時点で相談する」。境目を明らかにしておくことで、支援と任せることを両立させたいのです。
相手の目標を、こちらで決めつけない
プレセッションでお話しした、相手が進みたい方向に立って関わるという姿勢には、その人が何を目指しているかを知ることも含まれます。「将来は管理職になりたいはずだ」「もっと大きな仕事をしたいだろう」と、こちらの期待をそのまま相手の目標に置き換えていないでしょうか。
本人にとっては、まず今の担当を安定して進めたいという思いがあるかもしれません。専門性を深めたい人も、仕事と生活の時間を整えたい人もいるでしょう。目指す姿が違っていても、現在の役割で必要な仕事の水準は話し合えます。「あなたのため」という言葉で会社側の要求を包まず、組織として必要なことと、本人が望むことを、それぞれ丁寧に扱いたいのです。
伝える場所と時間にも、姿勢が表れる
同じ内容でも、ほかの人がいるところで突然言われるのと、落ち着いて確認できる場で伝えられるのとでは、受け止める条件が違います。皆さんが話したいことに、相手が説明や確認をする余地はあるでしょうか。必要な資料を見ながら話せるでしょうか。言葉の選び方と同じくらい、その場のつくり方も大切だと思います。
大勢への連絡の中に、特定の人への不満をにじませてしまうことも避けたいですね。「最近、基本ができていない人がいます」と全体へ投げかけても、当事者には何を直せばよいかが伝わらず、ほかの人まで自分のことかと迷うことがあります。個別の出来事なら、まず必要な相手と具体的に確認する。全体の仕組みの課題なら、その仕組みとして話し合うのです。
また、自分の気持ちが落ち着いていないときには、話す前に間を取る選択もできます。「今すぐ必要な対応はこれです。進め方の振り返りは、後ほど時間を取って話しましょう」。そう伝えれば、仕事を止めずに、感情に引っ張られた会話を避ける余地が生まれます。後ほどと言ったままにせず、話す時刻を決めておくことも大切です。
もし、すでに強い言い方をしてしまったなら、言い直すこともできます。「先ほどは話を遮ってしまいました。そこは申し訳なかったです。確認したいのは、今回の共有が遅れた経緯です」。伝え方について謝ることと、必要な確認を取り下げることは別です。リーダーが自分の言動を修正する姿も、仕事の関係をつくる一部なのだと思います。
対話の終わりに、次の約束をそろえる
一通り話した後、「分かりましたね」で締めくくる前に、次にどう進めるかを確認してみてください。いつまでに、誰が、何をするか。リーダーが約束した支援は何か。予定が変わったときには、どう知らせるか。そこが曖昧なままだと、お互いに理解したつもりでも、後で別の期待を持っていたことが分かる場合があります。
確認するときは、相手に復唱させて試すような形にしなくてもよいでしょう。「私は、明日の午前中に確認先へ連絡します。資料は確定している部分から今日共有してもらう、という進め方でどうでしょうか」と、こちらも自分の役割を示す。そのうえで、実行しにくい点や、まだ決まっていないことがないかを聞いてみるのです。
話した内容を短く残しておくことも役立ちます。ただし、長い反省文を求めることが目的ではありません。次に確認するとき、約束の中身を同じように思い出せればよいのです。「資料共有の時刻」「未確定項目の扱い」「確認先への連絡担当」など、仕事をつなぐための情報に絞ると、実際に使いやすくなります。
そして、次の機会には問題点だけを探さず、約束した行動がどうなったかを見ます。「今回は、遅れる可能性を先に知らせてもらえたので、確認時間を調整できました」。具体的な変化と、それが仕事にどう役立ったかを返す。指摘したときだけ関わって、その後を見ないということにはしたくありません。
同じことが続くときは、会話の外にも目を向ける
丁寧に伝え、確認しても、同じことが続く場合はあります。そのときは、言い方をさらに工夫するだけでなく、仕事量、役割分担、必要な知識、確認の経路などを見直すことも必要でしょう。本人の努力に委ねている部分が大き過ぎないか。複数の指示が食い違っていないか。会話の外側にある条件も確かめたいのです。
そのうえで、求める水準に届いていない状況が続いているなら、その事実も曖昧にしない。いつ何を確認し、どの支援を行い、何が変わっていないのかを整理して、役割や進め方について改めて話し合うことになります。相手を大切にする姿勢と、仕事への責任を明らかにすることの両方を、持ち続けたいと思います。
言葉を届けた先に、どんな関係をつくりたいですか
言いにくいことを伝える場面には、リーダー自身の姿勢が表れます。自分の正しさを認めてもらいたいのか。相手の落ち度をはっきりさせたいのか。それとも、必要なことを共有し、一緒に仕事を前へ進めたいのか。もちろん、実際の気持ちは一つではないでしょう。だからこそ、話す前に、自分が目指すところを確かめる意味があるのです。
私が経営写コンサルタント®として大切にしているのは、経営者やリーダーご自身の関わり方を、現場の姿から見つめ直すことです。「相手のために伝えているつもり」と、実際にどのような会話になっているかの間に、違いがあるかもしれません。それに気づければ、次の言葉も、話す順番も、用意する支援も変えられます。
事実を確かめ、必要な期待を伝え、前へ進むための支援を具体的にする。これは、台本どおりに言えばうまくいくという話ではありません。相手の話を聞いて、自分の認識を直すこともありますし、一度では結論が出ないこともあります。それでも、何を一緒に扱うのかが分かる対話を重ねていきたいですね。

皆さんが今、言いにくいと感じていることは何でしょうか。そのことを伝えて、どんな仕事の進め方に変えていきたいですか。相手に求める一歩とともに、自分が引き受ける一歩も考えてみませんか。伝える勇気に、聞く姿勢と支える行動を添える。私も皆さんとご一緒に、人と仕事の両方に誠実な関わり方を深めていきたいと思います。
