
こんにちは。経営写コンサルタント®の水野秀則です。皆さんは、一緒に働く人が何を大切にしているか、ご存じでしょうか。担当している仕事や、得意な作業は分かる。でも、何を話すと少し表情がやわらぐのか、どんなことに面白さを感じているのかとなると、案外知らない。そんな相手が、身近におられるかもしれません。
仕事では必要な連絡をしているし、挨拶もしている。それでも、どうも会話が続かない。こちらが話しかけても返事が短く、自分とは感覚が違うのかなと思ってしまう。経営者やリーダーの皆さんにも、そのような経験はないでしょうか。そこで、相性が合わないと結論を出す前に、少し立ち止まってみたいのです。
9月16日に12名で開催した「経営者シン感覚プレセッション」で、私は、相手の「大好き」を知ることについてお話ししました。自分と感覚の違う人に、どのような姿勢で関わるか。何を知っているかよりも、まず、知ろうとしているか。その問いを、私自身の経験を起点に、皆さんと考えた時間でした。
今回は、会話を盛り上げるための話題集ではありません。自分にはなじみのないことを、相手が大切にしている。その違いに関心を向けることから、対話を始めてみる。日常の小さなやり取りを通じて、一緒に働く人への見方を広げることについて、ご一緒に考えてみたいと思います。
「この人と一緒につくっていきたい」と決めるところから
プレセッションでは、私が、当初は関わり方に難しさを感じていた仕事の仲間との経験をお話ししました。自分と感覚や価値観が違うと感じると、人は距離を置きたくなることがあります。私にも、そのような戸惑いがありました。その中で、まず、この人と一緒につくっていきたいという姿勢を、自分の中ではっきりさせたのです。
相手を変える前に、自分がどう関わるかを決める。そのことが、私にとっては大きかったように思います。話が合わない証拠を探すように相手を見るのか、まだ知らないことがある人として見るのか。同じ短い返事を受け取っても、そこから考えることは違ってきます。まず変わったのは、こちらの構えだったのですね。
そこから、食事や飲み物の好みといった、身近なことを知っていきました。こちらがよかれと思って選んだものと、本人が好むものは同じとは限りません。聞いてみて初めて分かることがある。そんな小さな発見が重なって、自分の当たり前を相手に重ねていたことにも気づかされました。
知っているつもりを、少し横に置いてみる
ここでお伝えしたいのは、好みの飲み物を用意すれば関係がよくなる、という方法論ではありません。大切だったのは、自分がよいと思うものを渡す前に、相手にとってはどうなのかと目を向けることです。相手に合わせたつもりでも、実際には自分の判断だけで決めていた。そうしたことは、仕事の中にもあるのではないでしょうか。
例えば、説明は直接話したほうが親切だと考える人もいれば、先に短い資料を受け取ってから話すほうが考えやすい人もいます。詳しく説明しているのに反応が薄いとき、意欲の問題だと決めつける前に、情報の受け取り方が合っているかを確かめる余地があるかもしれません。自分にとっての親切が、相手にとっても同じとは限らないのです。
私が大切にしている経営写の視点は、こうした場面にもあります。自分が何をしているつもりかだけでなく、実際に相手にはどう届いているかを見てみる。関心を向けているつもりなのに、相手の答えを待たずに自分で決めていなかったか。相手を知ることは、自分の関わり方を写し出すことにもつながると思います。
共通の趣味がなくても、会話は始められる
人と親しくなるには、共通の話題が必要だと考えることがあります。同じスポーツが好き、同じ音楽を聴いている、同じ場所へ行ったことがある。確かに、それが会話の入口になることはありますね。ただ、共通点が見つからないと関係をつくれないのであれば、自分と似た人との会話に偏ってしまいます。
相手が好きだと話してくれたものについて、こちらが詳しくなくてもよいと思います。「私はよく知らないのですが、どんなところが面白いのですか」と聞くことはできます。知っているふりをして話を合わせるより、知らないところから教えてもらう。その姿勢のほうが、相手の見ているものに触れられる場合もあるでしょう。
例えば、相手がある音楽を好きだと話したとします。曲名だけを聞いて終えることもできますが、「聴くと、どんな感じがするのですか」と尋ねれば、気持ちが切り替わる、落ち着く、言葉に励まされるなど、その人なりの受け止め方が見えてくるかもしれません。同じ曲を好きになる必要はなく、その人にとっての意味を知ることが大切なのです。
「私も」で、相手の話を取り上げていないか
反対に、共通点が見つかったときにも、気をつけたいことがあります。「私も好きです」と言った途端、自分の知識や経験の説明が始まり、気づけば相手は聞き役になっている。会話が弾んだつもりでも、相手が何を楽しんでいるかは、ほとんど聞けていなかった。そんな場面はないでしょうか。
私は山やトレイルランニングが好きですが、同じように山が好きという人でも、何に喜びを感じるかは違うと思います。体を動かすこと、景色を見ること、静かに過ごすこと、仲間と時間を共にすること。同じ言葉を使っていても、楽しみの中心が同じとは限りません。共通点を見つけた後にも、相手を知る余地は残っています。
ですから、自分の話を少ししたら、もう一度相手に返してみる。「私はこういうところが好きなのですが、あなたはどうですか」。その一往復があると、共通の趣味が、知識の競争ではなく、互いの感じ方を知る時間になります。会話の主役を一人に固定しないことを、大切にしたいですね。
「何が好きか」の先にある、その人なりの理由を聞く
好きなものの名前を知るだけでも、会話のきっかけにはなります。ただ、そこからもう少し知りたいのは、どこに魅力を感じているのかということです。例えば、本が好きという人でも、物語に入り込むことを楽しむ人もいれば、知らなかったことを学ぶ時間を好む人もいるでしょう。同じ好みの中にも、いろいろな意味があります。
「どうして好きなのですか」と聞くと、理由をきちんと説明しなければならないと感じる人もいるかもしれません。そんなときは、「どんなところが好きですか」「最近、面白かったことはありますか」と、答えやすい入口にしてみる。相手が話してくれた範囲から、一つだけ関心を向けるくらいでよいと思います。
大切なのは、問いを連続して投げることではありません。質問をして、答えを受け取り、その言葉に一度立ち止まる。「自分のペースで考えられるところがよいのですね」と返してみる。もし違っていれば、相手が補足してくれるかもしれません。次の質問を探すより、今もらった答えを受け止めることです。
趣味から性格や能力を決めつけない
ここで、知ったことをすぐに人物評価へ結びつけないようにもしたいと思います。一人で楽しむ趣味が好きだから、共同作業が苦手だろう。細かな作業が好きだから、この仕事を任せればよいだろう。そのように、好みから仕事上の特徴を決めてしまうのは、本人を知ったことにはならないですね。
趣味は趣味として楽しみたい人もいますし、得意でも仕事では引き受けたくないこともあります。話してくれたことをきっかけに、本人の希望を確かめることはできても、本人に代わって結論を出さない。相手への関心は、その人を分類するためではなく、こちらの見方を増やすために向けたいのです。
世代についても同じではないでしょうか。若い人はこういうものが好きだろう、年齢が近ければ感覚も似ているだろう。そうした予想が会話の入口になることはあっても、本人の答えより優先しないことです。目の前にいるのは、世代の代表ではなく、その人自身です。知っているつもりの情報を、本人の言葉で更新していきたいと思います。
同じ意見にならなくても、理解しようとすることはできる
プレセッションでは、同感と共感の違いについても問いかけました。ここでは日常の関わりを考えるために、自分も同じだと感じることと、相手がそう感じる背景を理解しようとすることを、分けてみたいと思います。自分には同じ好みがなくても、その人にとって大切なのだと受け止めることはできます。
例えば、休日は大勢で過ごすのが楽しいという人と、一人で静かに過ごすのが心地よいという人がいるとします。どちらが充実しているかを決める必要はありません。「人と話す時間が元気につながるのですね」「静かな時間があると落ち着くのですね」と、それぞれの受け止め方を聞いてみる。それだけでも、自分とは違う楽しみ方への見え方が変わるかもしれません。
仕事での意見の違いにも、この姿勢は役立つと思います。すぐに試したい人と、先に条件を確認したい人。速さを求めている理由や、確認したい点を聞く前に、行動的な人と慎重すぎる人に分けていないでしょうか。結論に賛成するかどうかとは別に、その人が何を大事にしているかを知る時間を持つことです。
受け止めることと、すべて受け入れることは別
相手の気持ちを理解しようとすると、要求をすべて受け入れなければならないのではと感じる方もいるかもしれません。しかし、仕事では条件をそろえ、優先順位を決める必要があります。相手が大切にしていることを聞いたうえで、今回はどの範囲なら対応できるかを話すことはできます。理解と判断を、一つにしすぎないことです。
例えば、事前に資料を読んでから意見を出したいと聞いた場合でも、急な対応で十分な時間が取れない日もあるでしょう。そのときは、できない理由だけを伝えるのではなく、今渡せる情報や、後から補足できる時間を考えてみる。希望どおりにならなくても、何を大切にしているかを踏まえて相談したことは、やり取りの中に残ります。
「そう感じているのですね」と受け止めた後に、「仕事としては、この条件も一緒に考えたい」と続けられる関係を目指したいですね。相手に合わせ続けるのでも、自分の条件だけを押し通すのでもなく、互いに必要なことを言葉にする。好みを知る小さな対話は、そのような仕事の話をする土台にもなり得ると思います。
関心を向けることを、踏み込む理由にしない
相手を知りたいと思っても、私生活について何でも尋ねてよいわけではありません。職場では、仕事以外の話をしたい人もいれば、あまり話したくない人もいます。どちらも尊重されてよいはずです。「何が好きですか」という問いにも、すぐ答えられない日や、特に話したいことがないときはあるでしょう。
返事が短かったときに、もっと深く聞けば本音が出るはずだと追いかけない。忙しかったのかもしれませんし、今は話す気分でなかったのかもしれません。理由をこちらで決める必要もありません。話を続けるかどうかを相手が選べる余地を残すことも、関心の向け方の一つだと思います。
趣味や休日の話から始めなくても、知ることはできます。「この作業のどこが面白いですか」「説明を受けるとき、先に知っておきたいことはありますか」。仕事の範囲にも、その人の関心や大切にしていることは表れます。親しい私生活の話を共有することだけを、よい関係の証拠にしないようにしたいですね。
話してくれたことの扱いまで、大切にする
相手が個人的に話してくれたことを、別の場で気軽に紹介しない配慮も必要です。「この人はこういう趣味があるんですよ」と、本人のいないところで広めたら、本人は驚くかもしれません。一対一で話したことと、周りに知ってほしいことは同じとは限らない。必要なら、ほかの人にも話してよいかを確かめればよいと思います。
また、知った好みを、からかいや決まり文句にしないことも大切ですね。毎回同じ話題を振られたり、その趣味の人という呼び方で扱われたりすると、本人の別の面が見えにくくなります。関心を向けたつもりが、相手を一つのイメージに閉じ込めていないか。親しくなったと感じるときほど、気をつけたいところです。
一度聞いたことは、そのとき教えてもらったことです。好みも関心も、変わることがあります。「前にお好きだと聞きましたが、最近はどうですか」と、今の相手に確かめ直す。覚えていることを正解として扱うのではなく、新しく知る余地を残す。人への関心には、そのような柔らかさがあってよいと思います。
相手への関心を、対話につなげる三つの動き

日常で実践するなら、三つの動きを意識してみてはいかがでしょうか。決めつけずに聞く。自分の理解を確かめる。そして、次の関わりに生かす。何か特別な会話を始めるより、いつものやり取りの中に、この小さな往復を加えてみるのです。相手を知ったという結論を急がず、少しずつ理解を深めるための整理です。
一つ目は、決めつけずに聞くことです。例えば、相手が最近読んだ本について話してくれたら、「どんなところが面白かったですか」と聞く。「勉強熱心ですね」と評価して終える前に、その人が心を動かされた点を教えてもらいます。自分の感想を求められていないときは、急いで批評を加えなくてもよいでしょう。
二つ目は、自分の理解を確かめることです。「答えがすぐに出ることより、いろいろ考えられるところが好きなのですね」と、自分が受け取ったことを返してみる。ただし、言い切ってしまわず、「そういう感じでしょうか」と、違えば直せる形にする。相手が「そこだけではなくて」と言えるなら、こちらの理解を広げる機会になります。
三つ目は、次の関わりに生かすことです。相手が前もって考える時間を好むと仕事の話の中で教えてくれたなら、次の打ち合わせでは、可能な範囲で論点を先に渡してみる。聞いたことを大げさな演出にせず、小さな配慮にする。その際も、趣味から仕事の好みを推測するのではなく、仕事でどうしたいかは本人に確認したいところです。
理解したつもりなら、相手の言葉に戻る
会話をしていると、途中で「つまり、こういう人なのだな」とまとめたくなることがあります。その整理が便利なこともありますが、早くまとめすぎると、相手の言葉を自分の考えに当てはめてしまいます。例えば、静かな時間が好きという話を、集団で話すのが苦手なのだと受け取る必要はありません。話されたことと、自分の推測を分けておくことです。
もし返した言葉が違っていたら、「そうでしたか。私の受け取り方が少し違いましたね」と戻ればよいと思います。聞き上手であることを示そうとして、無理に分かった顔をする必要はありません。分からないことを確かめ、違っていたら直す。その姿勢こそが、相手を自分の枠に押し込めない関わりになるのではないでしょうか。
知ったことを、相手を動かす道具にしない
相手の好きなものを知れば、頼み事を聞いてもらいやすくなる。そのような目的が先に立つと、関心の向け方は変わってしまいます。話を聞いた直後に依頼を重ねたり、好みに合わせた何かを渡したうえで断りにくい頼み方をしたりすれば、相手は、親切の意味を考え直してしまうかもしれません。
私が大切にしたいのは、相手の好みを押さえて上手に動かすことではなく、その人と一緒によい仕事をつくることです。仕事を依頼するときは、目的や役割、必要な条件をきちんと話す。関心を向けたことへのお返しとして、協力を求めない。関係がよいからこそ、断ったり相談したりできる余地も残したいのです。
例えば、ある人がデザインを好きだと知ったとします。それを理由に、資料の見栄えを整える仕事をいつも追加するのはどうでしょうか。本人の希望や時間を確かめないままなら、好みを知ったことが負担につながってしまいます。好きなことを仕事に生かしたいか、どの範囲なら引き受けたいかは、別に相談する必要があります。
話の合う人だけに、関心が偏っていないか
同じ話題で盛り上がれる人には、自然と声をかけやすくなります。それは人として自然なことだと思います。ただ、経営者やリーダーの立場では、その話しやすさが、仕事の機会や評価にまで影響していないかを振り返りたいところです。雑談が少ない人の工夫や考えが、見えないままになっているかもしれません。
誰とでも同じ長さの雑談をする必要はありません。しかし、仕事の意見を聞く機会や、困っていることを伝えられる機会は、親しさだけに頼らずつくりたいですね。話しやすい人には口頭で聞き、考えてから伝えたい人には時間を置いて聞くなど、入口を変えることもできます。会話の量だけで、人との関係を測らないことです。
自分が最近、仕事以外の一面を知った人を思い浮かべてみると、関心の偏りが見えるかもしれません。いつも同じ人ばかりなら、普段あまり話していない人の仕事に目を向けてみる。私生活を尋ねる前に、その人がどんな工夫をしているかを聞いてみる。それも、相手を一人の人として知る、十分な入口だと思います。
好みの違いを越えて、一緒につくる関係へ
プレセッションでお話しした仲間との関係でも、私が目指していたのは、何でも同じように感じることではありません。互いに違う得意分野や視点があるからこそ、一緒につくれるものがある。私は、縦と横を掛け合わせて織物をつくるように、それぞれの力を生かしたいという趣旨をお伝えしました。
経営者という役割にあるから、相手のことを何でも分かっているわけではありません。相手には、その人の仕事を通じて見えているものがあります。自分とは違う関心の持ち方や、掘り下げてきた経験もあるでしょう。その違いを、扱いにくさとしてだけ見るのか、一緒につくる力として見ようとするのか。そこには、リーダーの姿勢が表れると思います。
例えば、全体を早くまとめたい人と、細部の使いにくさに気づく人がいたとします。どちらかを直せば済む話ではなく、どの段階で、どの視点を生かすかを考えたい。相手が何を気にかけているのかを知ると、細かい指摘に見えたものが、使う人への配慮だったと分かることもあるでしょう。仕事の違いにも、背景を聞く余地があります。
ただ、好みを聞いただけで、仕事の問題が解決するわけではありません。役割が曖昧なら整理する必要がありますし、意見が食い違えば具体的に話し合う必要があります。人への関心は、その検討の代わりになるものではなく、相手の言葉を丁寧に扱うための土台です。親しくなることだけを目標にせず、一緒に何をつくりたいかへつなげていきたいですね。
今日、一人に向ける問いを変えてみませんか
最後に、今日からできる小さな実践を一つ提案させてください。相手が自分から話してくれたことや、仕事の中で楽しそうに取り組んでいることに、一度だけ、いつもより関心を向けてみるのです。「どんなところが面白いのですか」「そこは、どのように考えたのですか」。答えを引き出そうと構えるより、教えてもらう気持ちで聞いてみてください。
そして、相手が答えてくれたら、すぐに自分の話へ移らず、一呼吸置いてみる。その人が使った言葉の中で、まだ分からないところがあれば確かめる。話を続けたくなさそうなら、そこで終えても構いません。たくさん聞けたことより、相手の話したい範囲を尊重できたことを、大切にしてみたいと思います。
次に会ったときには、自然な機会があれば、その話の続きを尋ねてもよいでしょう。ただし、覚えていることを披露するためではなく、今はどうなのかを知るために。以前と答えが変わっていても、それは新しく知れたことです。相手を理解するというのは、一度で完成する作業ではなく、関わりの中で少しずつ更新していくものなのでしょう。
私自身、相手によかれと思っていたことが、実は自分の好みを渡していただけだったと気づかされました。だから今も、知っているつもりにならず、聞いてみることを大切にしたいと思っています。「この人と一緒につくっていきたい」。その姿勢に立つと、違いは距離を置く理由だけでなく、知りたいことにも変わっていくのではないでしょうか。

同じものを好きにならなくても、相手が大切にしていることを、理解しようとすることはできます。皆さんの隣で働く方は、何に心を動かし、どんなところに面白さを感じておられるでしょうか。その方の「大好き」に、今日はどんな問いを向けてみたいですか。私も、一人ひとりの言葉に耳を傾けるところから、よい仕事を共につくっていきたいと思います。
