
こんにちは。経営写コンサルタント®の水野秀則です。皆さんは今日、誰かに「ありがとう」と伝えましたか。資料を届けてくれた人に。お客様への対応を引き受けてくれた人に。打ち合わせの準備をしてくれた人に。仕事の一日を振り返ると、自分の周りに、たくさんの人の働きがあったことに気づきます。
では、その「ありがとう」は、相手の何に向けた言葉だったでしょうか。期待していた結果を出してくれたこと。自分にはない知識を貸してくれたこと。それとも、こちらからは見えにくいところで、手間をかけて仕事を支えてくれたこと。同じ一言でも、何を受け止めているかによって、伝わるものは違うのではないかと思います。
9月16日、12名で開催した「経営者シン感覚プレセッション」で、私は「能力と労力」の話をしました。海外駐在中に先輩から教わり、その後も大切にしている考え方です。仕事の出来について求めることがあっても、その人が力を尽くしてくれたことへの感謝まで、置き去りにしない。今日は、このことをご一緒に考えてみたいと思います。
前回は、相談や失敗を話せる職場について、リーダーの反応に目を向けました。今回は、特別な問題が起きていない日にもある、人の働きを見ていきます。何事もなく進んだ仕事の陰に、誰のどのような手間があったのか。そこに目を向けると、普段使っている「よくやった」「助かった」という言葉も、少し変わってくるかもしれません。
海外で教わった、「能力」と「労力」を分けて見るということ
海外で仕事をしていた頃、私が出会った先輩の駐在員の方から、能力と労力について教えていただきました。能力については、まだ足りないところを伝えることもある。しかし、相手が実際に手をかけ、力を使ってくれたことは、きちんと受け止めて感謝する。その大切さを教わったのです。プレセッションでも、よい先輩に巡り合えたという思いとともに、お話ししました。
この学びが私にとって大きかったのは、「感謝すること」と「もっとよい仕事を求めること」を、一緒に考えられるようになったからです。感謝したら、改善点を言えなくなるわけではない。改善点があるから、何も認めてはいけないわけでもない。その二つを分けることで、相手への関わり方に余地が生まれたのだと思います。
できあがったものを見ると、足りないところが先に目に入る
経営者やリーダーは、次に必要なことを考えながら仕事を見ています。この資料をお客様に出せるか。この説明で相手が判断できるか。この段取りで約束した日に間に合うか。ですから、資料を受け取った途端、抜けている数字や、説明の弱いところに気づくことがあります。それも、仕事を預かる立場として必要な視点でしょう。
例えば、担当者がまとめた提案資料を確認する場面です。こちらの目には、費用の比較が足りないことがすぐに映る。「この数字も入れてください」と伝える。その指摘自体は適切でも、相手が複数の担当者に確認し、ばらばらだった情報を一つに整理してきたことには、何も触れずに終わってしまう。そんなことはないでしょうか。
相手がどれだけ手をかけたかは、完成した資料だけでは分からない場合があります。だから、想像で大きくほめるのではなく、何をしてくれたかを知ることから始めたいのです。「情報がそろっていますね。どのあたりの確認に手間がかかりましたか」と尋ねてみる。すると、出来上がりを点検するだけでは見えなかった仕事が、少しずつ見えてきます。
そこで聞こえてきた働きに対して、感謝を伝える。そして、足りない比較については、何の判断に必要なのかを説明し、追加を頼む。私は、この両方があってよいと思っています。相手を励ますために完成度をごまかす必要はありませんし、完成度を求めるために、受け取った支えをなかったことにする必要もありません。
「すごいですね」と「助かりました」は、見ているところが違います

「説明が上手ですね」「判断が速いですね」。こうした言葉は、その人が発揮した力に目を向けています。一方で、「先に確認しておいてくれたので、打ち合わせで迷わず説明できました」は、具体的な働きが、こちらの仕事にどうつながったかを伝えています。どちらも大切ですが、いつも前者だけでは、届かないものがあります。
能力の高さが目立つ人には、自然に声が集まりやすいものです。人前で分かりやすく話す人、難しいことをすぐに解ける人、大きな結果を出す人。もちろん、その力を認めたいですね。ただ、チームの仕事は、それだけで成り立っているわけではありません。表に出る前の確認や、その後の引き継ぎにも、人の力が使われています。
才能の評価だけでは伝えきれないことがあります
「さすが、あなたは何でもできるね」と言われた人も、実際には、事前に調べたり、試したり、誰かに確かめたりしているかもしれません。出来上がりだけを見て、簡単にできたこととして扱うと、その人がかけた手間には触れられません。得意な人ほど、苦労を見せずに仕上げるため、こちらが気づきにくい場合もあります。
例えば、いつも説明が分かりやすい担当者がいたとします。話す力だけでなく、聞き手が迷いそうな箇所を予想して、説明する順番を変えているのかもしれません。「話が上手」で終えず、「こちらが比較しやすいように、条件をそろえてくれていましたね」と伝えれば、相手が実際に行った工夫に触れることができます。
一方で、まだ仕事に慣れていない人にも、受け止められる働きがあります。分からない点を整理した。必要な情報を自分から確かめた。前に受けた指摘を、次の作業で確認した。十分な成果につながる前でも、具体的な行動は見つけられます。出来ていない部分への支援と、すでにしていることへの受け止めを、同時に進めてよいのです。
ここで「誰でも何か一つほめなければ」と、自分に課す必要はありません。無理に長所を探すと、言葉が相手の実際の仕事から離れてしまいます。何をしてくれたのかを見て、その働きが届いていることを伝える。まずは、このくらいの確かさから始めたいと思います。
何事もなく終わった仕事にも、誰かの労力があります
大きなトラブルを解決した人には、感謝が集まります。急な依頼を引き受けた人にも、「助かりました」と声がかかります。それは自然なことです。ただ、問題が起きる前に手を打ち、毎日の仕事が止まらないようにしている人の働きは、目立ちにくいですね。何も起きなかったために、何もしていないように見えてしまうことがあります。
予定の変更を関係者に伝えておく。共有する資料の場所を整える。担当者が変わっても分かるように、判断の理由を残す。こうした仕事は、一つひとつは小さく見えるかもしれません。しかし、その手間がなければ、誰かが探し直したり、聞き直したり、同じところで立ち止まったりすることになります。
「いつもどおり」の中を、一度のぞいてみる
例えば、打ち合わせがいつも予定どおり始まる職場を思い浮かべてください。資料があり、必要な人に連絡が届き、前回の宿題も分かる。会議に入る人にとっては当たり前の状態でも、誰かが変更を拾い、準備の抜けを確かめているかもしれません。開始時刻になれば自然にそろうわけではないのです。
その働きを知りたいなら、「準備でどんなことを確認していますか」と聞いてみるとよいと思います。「いつも大変でしょう」とこちらで決めつけず、本人がしていることを教えてもらう。意外に手間がかかるところも、本人が工夫して楽にしたところも見えてきます。そこから、感謝すべき点と、仕事の仕組みとして直すべき点が分かれてきます。
ただし、目立たない仕事を何でも美談にする必要はありません。本来は担当を決めるべきことを、気づく人がずっと引き受けている場合もあります。その人の気配りに感謝することと、今後も同じ人に任せ続けることは別です。「気づいて整えてくれていたのですね。ありがとう。毎回あなたが拾わなくても回る形を考えましょう」と、次の行動につなげたいのです。
私たちは、出来上がった成果を受け取る側にいると、その前の仕事を省略して見てしまいがちです。今日は何が滞りなく進んだか。それが進むために、誰がどこを整えてくれたか。この順番で一日を振り返ると、目立つ成功とは違うところにも、伝えたい「ありがとう」が見つかるのではないでしょうか。
感謝を具体的にすると、自分の仕事も見えてきます
「いつもありがとう」は、よい言葉だと思います。忙しい中で声をかけることにも意味があります。そのうえで、ときどき、その後に一言足してみませんか。何を受け取って、どのように助かったのか。長い説明をする必要はありません。相手が「あのことですね」と分かる具体性があれば十分です。
例えば、「昨日、変更点だけをまとめてくれたので、先方に確認する順番がすぐ分かりました」。これなら、相手は自分が行った整理が、次の仕事でどのように役立ったかを知ることができます。単に気分をよくしてもらうための言葉ではなく、仕事のつながりを伝える言葉になります。
大きくほめるより、見えたことをそのまま返す
「完璧です」「本当に素晴らしい」と大きな言葉を使うと、こちらの気持ちは強く表せます。しかし、何がよかったかが分からなければ、相手は次に何を続ければよいかをつかみにくいかもしれません。「相談前に二つの案を比べてくれたので、判断しやすかった」と伝えれば、続けてほしい仕事の進め方も見えてきます。
逆に、役に立ったかどうかをまだ確かめていないときは、効果まで言い切らなくてよいのです。「ここまで調べてくれてありがとう。内容を確認して、明日の打ち合わせで使います」。受け取ったことを伝え、実際に使った後で結果を返す。そのほうが、まだ起きていない成果をほめるより、自然な関わり方ではないでしょうか。
本人に直接伝えるか、皆の前で紹介するかも、内容に合わせて考えたいですね。皆の前では照れたり、負担に感じたりする人もいます。個別に一言伝えるだけでも構いません。反対に、別の人の前でその工夫を使うなら、誰の働きなのかが分かるようにする。伝える側の演出より、働いた人への敬意を中心に置きたいと思います。
また、感謝を伝えながら、自分がどこを助けてもらっているかに気づくこともあります。自分の判断が速かったのは、情報を整えてくれた人がいたから。予定どおり動けたのは、調整を引き受けてくれた人がいたから。人の労力を見ることは、経営者自身の仕事が、多くの人に支えられていることを確かめる時間にもなるのです。
結果が出なかったときにも、感謝してよいのでしょうか
ここが、経営者やリーダーにとって迷うところかもしれません。期待した成果に届かなかった。資料はまだそのまま使えない。提案も採用できない。それなのに感謝を伝えたら、これで十分だと思われないだろうか。その心配があるために、必要な指摘だけを伝えて終えてしまう場合があります。
私は、ここでも、何について話しているかを分ければよいと思っています。目標に届いたかどうかは確かめる。届いていなければ、その事実を伝える。同時に、相手が準備したこと、確認したこと、課題に向き合ったことについて、受け取ったものがあれば感謝する。片方を言うと、もう片方が言えなくなるわけではありません。
労力を受け止めたうえで、次の仕事を具体的にする
例えば、提案が通らなかった後の振り返りです。「今回は採用には至りませんでした。先方の状況を調べ、必要な人に話を聞いてくれたことは、次に考える材料になっています。そこはありがとう。では、今回、相手の判断に足りなかった情報は何だったかを整理しましょう」。このように、結果と、受け取った働きと、次に考えることを分けて話せます。
もちろん、調べたことが仕事の目的から外れていたなら、どこで方向を確かめればよかったかも見直します。何日も頑張ったことだけを理由に、今のやり方を続ける必要はありません。「ここまで進めてくれたことは受け取りました。次は、最初の段階で方向を合わせたい」と伝えることもできます。感謝は、方法を固定する約束ではないのです。
ここで避けたいのは、感謝を指摘の前置きにしか使わなくなることです。「ありがとう。でも」の後に長い修正が続き、感謝した内容は一言も残らない。それが毎回なら、相手には、最初の言葉が形式に聞こえるかもしれません。感謝する対象を具体的に伝え、修正は修正として、理由と必要な状態を説明したいですね。
「このままでは提出できません」と伝える必要があるときもあります。その場合も、どの部分が基準に届いていないのか、何を整えれば出せるのかを示す。相手の働きを受け止めることは、厳しい話を避けるためではありません。感謝を伝えることと、成果への責任を曖昧にしないことは、両立できます。その両方を引き受けるのが、リーダーの仕事なのだと思います。
労力への感謝を、無理な働き方の称賛にしない
「労力を認める」と聞くと、長く働いた人や、苦労した人ほど評価することだと受け取られるかもしれません。私がここで大切にしたいのは、そうした時間の長さの競争ではありません。その人が仕事にどのように関わり、何を担ってくれたかを見ることです。同じ役割を短い時間で果たせるように工夫した人にも、大切な働きがあります。
例えば、毎回遅くまで残って仕上げていた作業を、確認の順番を変えることで、時間内に終えられるようにした人がいるとします。以前のような苦労の姿は見えなくなりました。しかし、仕事を楽にした工夫は、本人だけでなく、次に担当する人にも役立つかもしれません。遅くまで残った日だけ感謝していると、その改善を見落としてしまいます。
「助かった」の後で、負担の偏りを見直す
急な変更で、誰かに予定外の対応をお願いすることはあるでしょう。そのときに感謝を伝えるのは大切です。ただ、「本当に助かった。次もよろしく」で終えると、引き受けてくれる人に負担が集まることがあります。相手が断らないことと、無理がないことは、同じではありません。
「今回、対応してくれてありがとう。その分、もともとの仕事に影響は出ていませんか」と確認する。必要なら予定を調整し、別の人へ仕事を分ける。何度も同じ緊急対応が起きているなら、依頼の出し方や締め切りの決め方を変える。受け取った労力を大切にするなら、言葉だけでなく、その後の仕事にも手を入れたいのです。
見落としたくないのは、いつも頼れる人ほど、困っている姿をこちらに見せない場合があることです。「あの人なら大丈夫」という信頼が、確認を省く理由になっていないでしょうか。感謝を伝えながら、その働きを当然の前提にしない。続けられる条件を整えることも、その人への敬意だと私は思います。
「ありがとう」は、依頼を断りにくくするための言葉でもありません。前回助けてくれたことと、今回も引き受けられるかどうかは、別に確かめたいですね。感謝したから次も応じてほしい、と返礼を求めると、せっかくの言葉に重さが加わってしまいます。受け取った支えは、まず、その支えとしてお返しする。それでよいのではないでしょうか。
近くにいる人の働きだけを、見ていませんか
人の労力を見ようとするとき、もう一つ気をつけたいことがあります。自分の近くにいる人や、報告の上手な人の働きは、見えやすいということです。同じ時間帯に働いている。会議でよく話す。相談に来る回数が多い。そのために、ほかの場所や時間で支えている人に、目が届かなくなることがあります。
これは、誰にでも同じ回数だけ感謝しようという話ではありません。自分が知っている仕事の範囲には限りがある、と自覚することです。「今、自分が助かったと感じていることは、誰のどの作業まで見たうえで言っているのだろう」。そう問い直すと、表に見えた一人の後ろに、別の人の働きがあることに気づくかもしれません。
成果を持ってきた人に、その前後のつながりを聞く
例えば、一つの案件が無事に終わったとき、最終報告をした人だけに声をかけて終わらず、「今回、進めるうえで、どんな協力がありましたか」と聞いてみる。必要な情報を集めた人、相手との日程を調整した人、最後の確認をした人。それぞれの役割が見えれば、感謝の行き先も具体的になります。
その際、誰が一番頑張ったかを決める場にしなくてもよいと思います。一つの成果に至るまでに、何がつながっていたかを知りたいのです。「皆さんありがとう」と全体へ伝える言葉も大切ですが、そこで個々の仕事が全部消えてしまわないようにする。必要に応じて、一人ひとりの役割にも言葉を返していきます。
逆に、自分が詳しく見ていない仕事について、分かったようにほめないことも大切です。「担当してくれてありがとう。どこに一番気を配って進めましたか」と、教えてもらえばよいのです。評価するために粗を探すのではなく、相手が見ていた課題や工夫を知る。その聞き方が、普段の仕事を理解する機会になります。
また、よく気づく人に調整や世話役が固定されていないかも見たいですね。「気が利くね」という一言で済ませると、役割として扱われないまま仕事が増える場合があります。誰かの善意だけに支えられている作業が見つかったなら、分担や引き継ぎを考える。その人の貢献が見えたことを、仕事の整理につなげていきたいのです。
「ありがとう」を、次の仕事がよくなるところまでつなげる
ここまでお話ししてきたように、感謝は人と人とのやりとりです。同時に、相手の労力を知ることは、仕事の進め方を見直す入口にもなります。毎回同じ人が確認していること。資料に書かれていない判断。引き継ぐたびに困る箇所。人の働きに目を向けると、組織として整えられることが見えてきます。
例えば、ある担当者が、問い合わせのたびに関係部署へ確認して答えているとします。その対応に助けられていることを伝えたうえで、「よくある質問を共有できれば、毎回聞き回らなくても済みそうですね」と考える。本人の経験を借りながら、次の人も使える形にする。感謝が、その人だけに頼り続ける理由にならないようにしたいのです。
日頃の言葉と、仕事の扱いをそろえる
日頃は「支えてくれてありがとう」と言っているのに、仕事を振り返る場では、その支えが一切話題にならない。そうなっていないかも確認したいところです。目立つ成果だけでなく、役割として期待していた貢献を、具体的な事実で振り返る機会を持つ。何を大切な仕事として見ているかが、普段の言葉とつながっていることが必要です。
ただし、その場の感謝の大きさを、そのまま処遇の判断に置き換えるのも違うと思います。親しく話した人や、自分の急な依頼を助けてくれた人だけが有利になれば、公平さが損なわれます。感謝は日々、受け取った働きに返す。役割や成果の評価は、共有した基準と、確認できる事実に照らして行う。目的の違うものとして扱うことが大切です。
「感謝しているから、今の条件のままでよいでしょう」と、必要な調整を省かないことも忘れたくありません。仕事の量が増えたなら、役割や分担を見直す。継続して専門的な仕事を担っているなら、その実態を把握する。感謝の言葉は、そうした検討の代わりにはなりません。働きを見たなら、必要な判断にもつなげたいですね。
人に関心を向けることと、仕事の仕組みを整えることは、互いに支え合うものだと思います。受け止めてもらえたという関係があるから、本人も困りごとを伝えやすくなる。その声を受けて仕事が整えば、同じ負担を抱え続けずに済む。感謝を言葉にし、その言葉に合う行動を重ねる。そこまで含めて考えたいのです。
経営者自身も、受け取っている支えを確かめてみませんか
経営者は、最後の判断を引き受ける場面が多いですね。自分が決めなければ進まないことがあり、先のことを考えると、心が休まらない日もあるでしょう。そんなときは、自分が何を背負っているかに意識が集まります。それも自然なことです。ただ、そこで一度、自分に届いている支えにも目を向けてみたいと思います。
数字を整えてくれる人がいる。現場の様子を知らせてくれる人がいる。約束を守り、お客様との関係をつないでくれる人がいる。もちろん、課題のある仕事もあるでしょう。それでも、足りないところだけを見ていると、すでに受け取っているものが、自分の視界から抜けてしまいます。
私は「経営者の人生が豊かになることで、企業が発展する」という思いを大切にしています。豊かさを考えるとき、人との関係は欠かせません。いつも自分が与えなければならない、教えなければならない、支えなければならないと構え続けず、自分も受け取っていることを確かめる。そのことが、目の前の人との関わり方を柔らかくしてくれるのではないかと思います。
プレセッションで海外の先輩から教わった話をしたのも、私が一人でこの考えにたどり着いたわけではないからです。先輩の言葉に助けられ、現場で考え、また皆さんとの対話で見直している。教わったことを次へ手渡すときにも、その出発点への感謝があります。リーダーも、人の働きや言葉に支えられながら育っていくのだと思います。
今日、一人の「何をしてくれたか」を言葉にしてみる
ここまでお読みくださって、ありがとうございます。最後に、今日からできる小さな実践を一つ提案させてください。仕事を終える前に、一人の顔を思い浮かべ、その人が今日してくれたことを一つ、具体的に言葉にしてみませんか。大きな成果である必要はありません。自分の仕事につながった、小さな準備や確認でも構いません。
「助かりました」の前に、何をしてくれたかを添える。「ありがとう」の後に、それが何につながったかを添える。どちらでもよいと思います。もし、具体的なことが浮かばないなら、相手の一日の仕事を少し教えてもらうところから始めてください。無理に感謝の言葉を作るより、まだ見えていない仕事を知るほうが、次につながります。
その際、感謝を伝えた直後に、次の依頼を載せなくてもよいですね。今日は、受け取ったものを受け取ったと伝える。それだけのやりとりがあってもよいのです。改善の相談が必要なら、それは目的を示して別に扱う。言葉を増やすことより、一つひとつの言葉が何を伝えているかを大切にしてみてください。
そして、自分にも短く問いかけてみます。結果が出たときだけ、声をかけていなかったか。自分に見えるところで働く人に、感謝が偏っていなかったか。「いつも助かる」と言いながら、同じ人に負担を集めていなかったか。すべてを一日で変える必要はありません。気づいた一か所から、明日の関わり方を変えればよいと思います。
能力を高め、成果を出すことは、仕事にとって大切です。その土台には、人が時間と心を使い、手を動かしてくれた事実があります。成果を求める目と、人の労力を受け止める目。その両方を持つリーダーでありたい。私は、海外で教わったことを、今もこのように受け止めています。

皆さんの今日の仕事は、誰のどんな働きに支えられていたでしょうか。その方へ、どんな「ありがとう」を返したいですか。私もまた、当たり前のように受け取っていた支えを見直しながら、具体的な一言を届けていきたいと思います。
