経営者の「引き際」とは?──世代交代を成功させるための本質

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経営者の「引き際」とは?──世代交代を成功させるための本質

2025年10月2日

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ふさぽ

後継者をホンマモンに育む、応援をしています。社長を19年経験してわかったこと。それは'トップ自らの人生'を豊かにすること…人との”ツナガリ”づくりを通して。その入り口として、口癖にこだわり、Xでは発信中。『口ぐせは生きグセ』人生観に裏うちされた、事業づくりがトクイ種目。 ホンマデッカァw

経営者にとって「引き際」が問われる理由

去り際の美学と現実のギャップ

経営者にとって「去り際」はしばしば美学として語られます。
「潔く身を引く」「後進に道を譲る」──確かに耳触りは良いのですが、現実の経営の現場ではそう単純にいきません。

私自身、多くの経営者や後継者に向き合ってきましたが、去り際を誤れば企業そのものの存続に関わるケースも少なくありません。なぜなら、経営者の存在は単なる役職以上のものであり、その人の価値観や人生観が組織の文化や意思決定に深く影響しているからです。

理想としては「よいタイミングで潔く退く」こと。しかし現実は、経営者として積み重ねてきた経験や自負が強ければ強いほど、後進にすべてを託すのは難しい。そこに「去り際の美学」と「現実のギャップ」が生まれます。

ときに、そのギャップが世代交代の停滞を生み、さらには「老害」との烙印につながることもあるのです。

「老害」と言われるリスクの正体

経営者にとって最も恐れるべき言葉のひとつが「老害」でしょう。
この言葉は年齢だけで語られるものではありません。実際には、若いリーダーであっても「自分のやり方に固執し、周囲の声を受け入れない姿勢」を見せれば、同じように組織から疎まれることがあります。

つまり「老害」とは年齢の問題ではなく、間違いを認めない体質にこそ根があります。
どれほどの実績やカリスマ性を持っていても、自らの判断や行動が間違っていたと認められなければ、次の世代の可能性を摘み取ってしまうのです。

私がこれまでご一緒してきた経営者の中にも、過去の成功体験が忘れられない」「自分のやり方が一番だ」という思い込みから、世代交代停滞した事例がありました。
その結果、社員や後継者の意欲が削がれ、企業の未来に影を落とすケースも決して少なくありません。

逆に言えば、間違いを認める潔さを持つ経営者は、年齢に関わらず周囲から尊敬を集め、次世代への信頼をつなぐ存在となります。

世代交代が進まない背景とは?

カリスマ性が次代の成長を妨げる時

企業を育ててきた経営者のカリスマ性は、時に大きな財産となります。
強いリーダーシップのもとで社員が一丸となり、数々の困難を乗り越えてきた――そんな物語を持つ企業は少なくありません。

しかし、そのカリスマ性が次世代の成長を妨げる壁になることがあります。
経営者の影響力が強すぎると、後継者はいつまでも比較され、自由に意思決定をすることが難しくなるのです。社員も最終的には社長の一言で決まると思ってしまえば、新しい挑戦への意欲は削がれてしまいます。

実際、私が相談を受けたある企業では、創業者が健在な間、後継者がいくら新しいアイデアを出しても「まだ早い」「もっと経験を積んでから」と退けられ、結果的に成長の機会を奪われていました。
このように“カリスマの重さ”は、知らず知らずのうちに組織の停滞を招くことがあるのです。

経営者に求められるのは、「自分の存在感を残すこと」ではなく、「次の世代が伸びやかに力を発揮できる環境を残すこと」。
この視点を持てるかどうかが、真のリーダーシップの分かれ道なのだと思います。

若手リーダーに共通する葛藤

世代交代の現場では、若手リーダーが「自分はまだ力不足ではないか」と葛藤する姿をよく見かけます。
経験豊富な先代と比べられるプレッシャーや、社員からの期待と不安が入り混じった視線は、想像以上に重いものです。

さらに、先代が現役で強い影響力を持っていると、「自分の判断は正しいのか」「もし失敗すれば会社を傾けてしまうのではないか」と、自信を持って意思決定できなくなることもあります。
その結果、挑戦を避け、守りに入ってしまうケースが少なくありません。

私自身、若い経営者の方から「社員の前では強く振る舞っているけれど、内心は常に不安と隣り合わせです」と打ち明けられたことがあります。
その正直な言葉に、人間としてのリアルさを感じましたし、同時に「葛藤こそがリーダーを成長させる養分になる」と強く思った瞬間でもありました。

若手リーダーに必要なのは、完璧さではなく、学び続ける姿勢と謙虚さです。
そして、その葛藤を正しく受け止め、支えてくれる存在がいるかどうかが、成長のスピードを決定づけるのです。

経営者に必要な「間違いを認める力」

潔さが企業文化を変える

経営者の姿勢は、そのまま企業文化に映し出されます。
特に潔さは、次世代へと企業をつなぐ上で欠かせない要素です。

「自分の判断は誤っていた」「この部分は後継者のほうが優れている」──そう口にできる経営者の姿は、社員にとって強烈な学びになります。間違いを認めることは弱さではなく、むしろ信頼を深める勇気ある行動だからです。

私が支援してきたある企業では、創業者が会議の場で「この件は私よりも若手の方がよく理解している。任せよう」と言葉にしました。その瞬間、社員の表情が明るくなり、後継者の発言が自然と受け入れられる空気が生まれました。
潔さは単なる美徳ではなく、組織の風土そのものを変えていく力を持っているのです。

経営者が「認める文化」を率先して示すことで、社員もまた互いの違いや失敗を受け入れやすくなります。結果として、挑戦が生まれ、企業全体の活力が高まっていくのです。

組織の未来を託す勇気

経営者にとって、自らが築き上げてきた組織を他者に託すことは、想像以上に勇気のいる決断です。
自分がいなくても大丈夫だろうか」「本当に任せてよいのか」という不安は、多くのリーダーが抱く共通の思いでしょう。

しかし、その勇気なくして組織の未来は拓かれません。
リーダーが手を離すからこそ、新しい世代が挑戦し、学び、成長していけるのです。

私はこれまで数多くの経営者と関わってきましたが、バトンを渡す瞬間を経験した方々は皆、最初は大きな不安を語られていました。ところが、いざ後継者に任せてみると、思いもよらぬ発想や新しい展開が生まれ、「もっと早く託していればよかった」と振り返る声を聞くことも少なくありません。

勇気とは、不安がない状態を指すのではなく、不安を抱えたまま一歩を踏み出すことです。
経営者がその姿を示すこと自体が、次世代への最大の教育であり、企業の未来を輝かせる原動力になるのではないでしょうか。

世代交代を成功させるための3つの視点

ビジョンを共有する

世代交代を成功させるうえで欠かせないのが「ビジョンの共有」です。
経営者交代の際、後継者が最も戸惑うのは「会社をどの方向へ導くべきか」という大きな問いです。ここで先代と後継者の描く未来像に齟齬があれば、組織は混乱し、社員も迷いを抱えてしまいます。

私がこれまでサポートしてきた企業でも、先代は「堅実経営」を掲げ、後継者は「新しい挑戦」を望むという構図がよく見られました。両者の思いが対立してしまうと、どちらの考えも社員に伝わらず、結局は組織全体の足並みが揃わなくなってしまうのです。

そこで大切なのは、「どちらが正しいか」ではなく「どんな未来を一緒に創りたいのか」という視点を持つことです。
経営者と後継者が率直に語り合い、互いの価値観や目指す姿を重ね合わせることで、組織は一体感を取り戻します。

ビジョンを共有することは、単なる理念の統一ではなく、「全員が安心して力を発揮できる基盤」を築くことなのです。

後継者の自主性を尊重する

世代交代の過程で最も難しいテーマのひとつが、「後継者の自主性をどこまで認めるか」という問題です。
先代には「まだ経験が浅い」「リスクが大きいのではないか」と不安がつきまとい、つい口を出してしまうことがあります。ですが、それは後継者にとって「信じてもらえていない」というメッセージになりかねません。

実際、私がご一緒したある後継経営者は、「父から任されたと言われながら、重要な場面ではすべて最終判断を持っていかれる」と悩んでいました。その結果、自分の意思決定に自信を持てず、社員の信頼を得るのにも苦労していたのです。

後継者が失敗するのは、むしろ自然なことです。重要なのは、その失敗を通じて学びを得て、次に活かしていくサイクルを早く築けるかどうか。経営の現場でしか磨けない感覚がある以上、挑戦と修正の機会を奪ってはなりません。

経営者が任せる覚悟を持つことで、後継者は真にリーダーとしての力を養い、組織全体に新しい息吹をもたらします。
自主性を尊重する姿勢こそが、未来の企業を力強く支える土台になるのです。

支える立場に徹する

世代交代の本当の成功は、「後継者が独り立ちできること」だけではありません。
むしろ大切なのは、先代が一歩下がり「支える立場に徹する」ことで、後継者が安心して挑戦できる環境をつくることです。

表舞台から退くことは、長年経営の最前線に立ってきた経営者にとって容易ではありません。ですが、背中で語るリーダーから「陰で支えるリーダー」へと役割をシフトすることこそが、次世代を育む最も大きな力になります。

私が見てきた企業でも、先代が相談役として一歩引いた立場から後継者を見守った結果、社員が自然と新社長を中心に動き出した例があります。逆に、先代が口を出し続けてしまった企業では、社員が「どちらの指示を聞くべきか」と迷い、組織全体が停滞してしまったこともありました。

支える立場に徹するとは、決して無関心になることではありません。必要な時に的確な助言を与えつつ、日常的には後継者の判断を尊重する。
そのバランスを保つ姿勢が、次世代のリーダーを力強く成長させ、企業の未来を支えるのです。

引き際の美学が企業を永続させる

経営者にとって引き際は単なる退任の瞬間ではなく、企業を未来へつなぐ大切な意思表示です。
潔くバトンを渡す姿勢は、社員や後継者に「この会社は次世代に託されている」という安心感を与えます。

一方で、その判断を先送りし続ければ、世代交代が遅れ、組織の成長を止めてしまうリスクもあります。
歴史ある企業が次々と姿を消している背景には、経営者の「引き際」を誤った事例も少なくありません。

私は、真に強い経営者とは「自らが去った後も企業が発展し続ける仕組み」を残せる人だと考えています。
そのために必要なのは、ビジョンを共有し、後継者の自主性を尊重し、支える立場に徹する勇気です。

引き際の美学とは、単なる自己満足の潔さではなく、「未来のために身を引く覚悟」です。
その姿勢こそが企業を永続させ、社員や社会からの信頼を揺るぎないものにするのです。

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