中小企業庁も実名公表へ──今こそ考えたい「下請け」という言葉の違和感

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中小企業庁も実名公表へ──今こそ考えたい「下請け」という言葉の違和感

2025年8月7日

ニュースで注目された“実名公表”とは?

中小企業庁の動きとその背景

2025年8月、中小企業庁がある動きを見せました。
代金の支払いに関する対応で適切でないとされた15社──その社名を、初めて公表したのです。

「シャトレーゼ」や「三菱鉛筆」といった企業名に驚いた経営者の方も少なくなかったでしょう。実名公表という手段は、行政としては一種の“最後通告”ともいえる対応です。しかも今回は、単なる契約違反やミスではなく、「価格交渉への姿勢」や「手形での支払い」といった慣行が問われた点が注目されます。

この動きの背景には、2026年1月から施行される改正下請法があります。これまで慣例とされてきた「手形払い」──60日を超える支払いの遅れや、割引料の押し付けといった“商慣習”に対し、ようやく是正の動きが本格化しようとしています。中小企業庁はその一環として、全国約30万社にアンケートを実施。そのうち6万6千社が回答し、「主要な取引先」とされた446社について、支払い対応や交渉姿勢を10点満点で評価するかたちを取りました。

ここで大切なのは、「受注側」の声を丁寧に拾い上げたということです。
「お金の問題ちゃうねん、姿勢の問題や」──そう受け止めた企業も多かったのではないでしょうか。

支払条件、交渉の余地、負担の転嫁。これらは単に契約書の問題ではなく、取引における関係性そのものの“質”が問われる場面です。

私は今回の報道を通して、制度的な変化以上に、今の企業社会が根底から見直すべきものがあると感じました。

それが、「発注者」下請けという言葉そのものがもたらす、構造的な上下関係です。

なぜ「下請け」「上請け」という言葉に違和感を持つのか?

言葉が生み出す“上下関係”の固定観念

経営の現場では、何気なく使っている言葉が、組織文化そのものをつくり上げています。
その中でも私が強く違和感を覚えるのが、「下請け」「上請け」という言葉です。

たしかに、ビジネスの契約構造として、発注側・受注側という区分けは存在します。
しかしながら、「下請け」「上請け」という言い方は、そこに明確な“上下関係”を持ち込む構造的な言葉です。

「うちは下請けなんで…」「上に逆らえませんから…」
そんな言葉を現場で耳にするたびに、私の中には一つの疑問が浮かびます。
──“この言葉が、組織の成長や社員の意欲を、無意識のうちに抑え込んでいないか?”

事実、HR(人事)の世界では、「上下」ではなく「横の関係」こそが信頼と連携を生むとされています。
「心理的安全性」や「フラットな対話」が企業文化を支える要とされる時代において、未だに“上から目線”を助長するような言葉を当然のように使っていて良いのでしょうか。

私は、「言葉は、関係性を決定づける」と強く感じています。
特に「下請け」という言葉には、無意識に“従属”や“遠慮”の空気を漂わせる力があります。
その空気が蔓延すれば、創造的な提案やイノベーションは生まれにくくなります。

逆に、たとえば「パートナー企業」「協力会社」と呼ぶことで、関係のあり方が変わってくることを、私は数多くの企業現場で見てきました。

──「あの言葉、やめへん?」

これは、ただの言葉の言い換えではありません。
関係性そのものを、共創の場へと変えていく“意志”の表れなのです。

発注側と受注側の関係性は、本来どうあるべきか?

心理的安全性とフラットなパートナーシップ

私たちは仕事をするうえで、「契約関係」だけでなく、「信頼関係」を同時に築けているでしょうか。
発注側と受注側という構造の中にあっても、そこに上下関係だけが存在するわけではありません。

本来、仕事は「お願い」と「応える」の積み重ね。
つまり、対等な関係でこそ、良い仕事が生まれるものです。

最近、心理的安全性という言葉が、組織づくりやマネジメントのキーワードとして広く使われるようになってきました。
これは決して社内の話だけではなく、社外パートナーとの関係にも当てはまる考え方です。

「うちの言う通りにやってもらえればいい」
「こちらは発注してやってるんだから」
そんな姿勢では、相手は自らの意見を口にできず、ただ指示待ちの仕事しかできなくなってしまいます。
結果、品質の向上も提案も期待できなくなり、じわじわと業績に跳ね返ってくる。

逆に、受注側の企業にとって「この会社と仕事をすると、自由に意見が言える」「提案も歓迎される」と感じられる関係ならどうでしょうか。
そこには信頼と尊重が生まれ、成果も自然と変わってきます。

つまり、契約の有無を超えた「人間対人間の関係性」が、実はビジネスの本質ではないかと私は思うのです。

私は常にこう問いかけます。
──「その相手を、取引先としてでなく同志として見ているか?」

発注側にいる経営者こそ、その意識を変えることが、会社の未来にとって大きな一歩となると信じています。

企業文化を変えるには、言葉づかいから変える

HR・人事が先に取り組んできた「言葉の力」

「文化は、毎日の言葉づかいから生まれる」

これは、私が多くの企業現場で感じてきたことの一つです。
特にHR(人事)や人材開発の分野では、「言葉の力」が組織に与える影響について、早くから着目されてきました。

たとえば、「部下」ではなく「メンバー」と呼ぶ会社。
「指導」ではなく「サポート」「コーチング」と言い換える現場。
こうした取り組みは、単なる言葉の遊びではありません。

言葉の選び方が変われば、関係性が変わります。
関係性が変われば、信頼が生まれ、行動が変わり、結果が変わっていく──これが企業文化を育てる本質なのです。

実際に私は、ある製造業のクライアントでこんな事例に出会いました。
その会社では長らく、「指示・命令型」の言葉が当たり前に飛び交っていました。
「早くやれ」「なんでできないんだ」──そんな言葉が職場の空気を支配していたのです。

そこで私たちは、まず上司の「口癖」に注目する研修を実施しました。
はじめは「言葉なんかで何が変わる」と懐疑的だった管理職の皆さんも、自らの口癖を“写し出す”ことで、少しずつ気づいていかれました。

「おっ、それ気にかけてくれてたんやな、ありがとう」
「その報告、正直うれしかったで」
──そうした言葉が飛び交いはじめると、報連相の質も量も目に見えて変わっていきました。

私は言います。
文化を変えたいなら、まずは“言い方”を変えよう

企業文化とは、トップの方針でも制度でもありません。
現場で使われる“日々の言葉”の集積なのです。

だからこそ、経営者であるあなたが使う「言葉」が、会社の未来をつくるのです。

経営者こそ、“発注する姿勢”を見直すタイミング

関係性が変われば、業績も変わる理由

企業の成長や業績向上を考えるとき、多くの経営者は「戦略」や「商品力」「価格競争力」といった視点に意識を向けがちです。
しかし私は、もう一つ重要な視点があると考えています。

それが「関係性」です。

たとえば、同じ製品でも──
「この会社とは、また一緒に仕事がしたい」
「この担当者は、こちらの事情を理解してくれる」
そう思われる企業と、そうでない企業では、取引の質も長さも大きく異なってきます。

「うちは、価格を頑張ってるから大丈夫や」
──そうおっしゃる経営者の方もおられます。ですが、それだけで選ばれる時代ではありません。

人は“感情”で動きます。企業もまた、人の集合体です。
相手を大切にしているか、敬意をもって接しているか──その姿勢は必ず伝わります。
「取引先」ではなく、「パートナー」として向き合う。
そのひとつひとつの積み重ねが、“信頼残高”を築いていくのです。

私はこれを「無形の資産」と呼んでいます。

一見、売上や利益に直接つながらないように見えるこの“関係性の質”こそ、長期的に見れば最もリターンの大きな経営資源です。

経営者自身の「発注する姿勢」──
それは、企業の文化を写す鏡であり、社員もまたそれを見て育っていきます。

「どうせ言っても聞いてくれない」ではなく、
「この人に話したいと思える」存在であること。

経営者であるあなたのその“あり方”が、現場の空気を変え、業績のベースをつくっていくのです。

「上下関係」から「共創関係」へ──未来志向の取引とは

言葉を変えると、企業の未来が変わる

「下請け」という言葉に、どこか抵抗を感じておられた方もいらっしゃるかもしれません。
でも、それを「協力会社」と呼び直したとき、関係性がふっと変わる感覚──一度でも経験された方なら、お分かりいただけるのではないでしょうか。

私たちは、無意識のうちに言葉に支配されています。
言葉が生むイメージは、行動を縛り、関係性を決め、やがて組織文化をつくり上げていく。

だからこそ、言葉を変えることは、未来を変える第一歩です。

「うちは下請けだから」ではなく、
「この仕事を通じて、価値を共に創り出したい」──
そのように語れるパートナーシップが築かれたとき、取引は単なる発注と納品の繰り返しではなくなります。

そこには、共創という視点が生まれます。

これは、経営の理想論ではありません。
実際に、下請けという立場に甘んじず、自社の技術や提案力を活かして主体的に動く企業が増えています。
同時に、発注側の企業もまた、相手の立場に立ち、フェアで建設的なやりとりを大切にする動きが広がっています。

「自社だけが得をすればいい」
そんな短期視点の発注姿勢は、すでに通用しません。

経営者であるあなたが、“上下”ではなく“横のつながり”を意識し、相手を敬い、共に高め合う姿勢を持つこと。
それが、御社の未来を変える「言葉」と「関係性」を生み出すのです。

私はそう信じています。
そしてこれからも、「共創関係」を大切にする経営者が増えていくことを、心から願っています。

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