リーダーが意識をしたい先手必勝の姿勢【事例1】
12年も前のことになるが、上場企業と非上場企業であり、風土も異なる、キリンホールディングスとサントリーホールディングスが経営統合に向け協議に入っていることが発表された。紆余曲折があり、統合には至らなかったが、両社の動きが愉しみであった。
統合が実現すると、売上高3兆8千億円。
主力商品のマーケットシェアは、ビール系飲料で実に49.6%、清涼飲料で31.4%となり、それぞれ従来1位のアサヒビールとコカ・コーラグループを抜いてトップに立つ。
総売上高ではアサヒビールの2.6倍となり、ライバルに大きく水をあける巨大グループが形成される(当時)。
統合計画発表の背景には、もちろん様々な障害が想定されるものの、そこには加藤社長と佐治社長の熱い想いがある。
物流や原材料調達面の効率化はもちろんのこと、成長著しいアジアマーケットをはじめ海外で互角に戦う規模や収益基盤作りに敢えて先手を打っていこうとするのは間違いがないところだ。(当時、両社とも決算で最高益を更新していた)
この話題でリーダーや幹部の方々と意見交換をすると、
「あの規模でも、安心できないものなのですね」
「どこまで行っても、常に変革を迫られる」
「強い企業(組織)ほど、危機感があり、先手・先行で手を打っていきますね」
という声が多かったのが想い出される。
先手を打つことにこだわり、名言名文句を残した伝説の棋士【事例2】
今回の統合の話を耳にする中で、私はある人物のことがとても気になった。
その人物とはビジネス関係でも、ましてや食品関係でもない、まったく異分野の方だ。
将棋の世界で今なお絶大なる人気を誇る棋士(きし)、升田(ますだ)幸三氏(実力制第4代名人)である。
升田氏は「新手一生」(新手の創造なくして、真の将棋道の発展なし)を生涯の信条に掲げ、定跡(将棋の用語)にこだわらず革新的な手法を常に生み出し、攻めの将棋を指したことで知られている。将棋史上初の三冠(名人・王将・九段)制覇をした時、「辿り来て未だ山麓」の名文句を残す等、常にイノベーションにこだわり求道し続けた方だ。
升田氏は将棋だけに留まらず、生き様もそれこそ求道者そのものであり、実に独創的であった。
13歳の時に、プロの棋士を目指して家出をする。
その時に書置きした言葉(物差しの裏に書き残したのもユニーク)が有名な
「この幸三、名人に香車(きょうしゃ)を引いて勝つ」だ。
しかも、24年後に2段差にも匹敵するハンデを背負いながらも、公式タイトルや優勝回数歴代1位を誇る大山康晴名人を相手に、この夢をも実現した人生であった。
伝説的なリーダーとは? 先手新手にこだわり、記録だけでなく記憶に残る
この升田幸三氏の自伝「名人に香車を引いた男」を改めて読み直す中で、羽生名人や渡辺竜王(弱冠20歳で将棋界の最高位である竜王位を獲得)をはじめ現在の多くの棋士が、将棋を指してみたい棋士や最も敬愛する棋士として升田名人をあげる理由がしみじみと伝わってきた。
「記録だけでなく記憶に強く残るリーダー」として、未だにそのスピリッツを慕う将棋ファンも多い。
将棋や囲碁に関心のない方でも、リーダーとしての生き様を学べる一冊としてご一読をお薦めする。
改めて読んだ私の印象は、升田名人の破天荒で何ものにも頼らない生き様であり、一切の言い訳や妥協をせず、ひた向きなチャレンジスピリッツで人生と仕事を切り拓く姿勢であった。
(この限られたコラムでは紹介しきれない逸話が沢山ある)
リーダー自身が先手必勝を意識して挑む姿勢
今回、まったく異なる食品業界と将棋界という分野ではあるが、その根本にあるリーダーの思想(想い)という面ではいずれも大変共通するものを感じた。
リーダーは、安定を求めるからこそ、敢えて変革の道を求めていく姿勢が大切だということだ。
「組織はリーダーの陰なり」──メンバーに変革を宣言し、変わることを相手に求めることも時として大切かもしれない。
が、まずわれわれリーダー自身が先手で新手に挑む姿勢が望まれていることを強く感じた素晴らしい機会であった。
あなたご自身は何を感じ、何に取り組んでおられますか?
先手必勝を意識して挑むリーダーのあなたへの言葉
- 「常に変革」
- 「強い企業(組織)ほど、危機感があり、先手・先行で手を打つ」
- 「新手一生(新手の創造なくして、真の将棋道の発展なし)」
- 「たどり来て、未だ山麓」
- 「記録だけでなく記憶に強く残るリーダー」
- 「安定を求めるからこそ、敢えて変革の道を求めていく姿勢」
- 「組織はリーダーの陰なり」
- 「先手で新手に挑む姿勢」
先手を打つリーダーのあなたへの問い掛け
- あなたはリーダーとして自らに変革を迫っておられますか?
- あなたにとっての先手新手とは何でしょうか?
(2022年2月8日リライト)